『Trompe-l'oeil』Marcel F. Lanteaume,1946年。
これこそまさに本格ミステリです。
消失に次ぐ消失。ストーリーテリングのかけらもない(機能的かつ退屈な)文章。机上のトリック。読者への挑戦。
宝石が、飛行船が、ついには人が――驚くべき消失の真相はどれもがばかばかしいものです。どれを取っても、「誰か気づけよ!」
特に後の二つはあまりにも他愛ないもので、メインは宝石消失の謎なのですが、物理的な密室と視線の密室を、物理的な仕掛けに語りの仕掛けを組み合わせて組み立てたという点では意欲作なのかもしれません。物理的な仕掛けの方は、何だか島荘みたいで好きです。
マクシムをめぐる副次的真相や、犯人特定のためにまぶされた手がかりなど、けっこう手練れにも思えるのですが、いかんせん、はったりかました真相と抑制の利いた文章が最後までミスマッチでした。
解説で触れられていたロラン・ラクルブのガイドブック『九十九の密室』、編『Mystère à huis clos』、ノエル・ヴァンドリー『壁を抜けて』などが気になる。
幾度も盗難の危機を乗り越えてきたプイヤンジュ家のダイヤモンド《ケープタウンの星》。銀行の金庫で保管されていたこのダイヤが、令嬢結婚の日に公開されると、警官たちの厳重な監視にもかかわらず、偽物にすり替えられてしまった! 誰が? いったいどうやって? 第二次大戦末期、本格ミステリ・マニアのフランス人が捕虜収容所で書き上げたという、幻の不可能犯罪ミステリ。(カバー裏あらすじより)
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