『魔術師』佐々木俊介(2016)★★★☆☆

『魔術師』佐々木俊介(2016)

 著者Webページ(→https://s-mystery.net/club/ 旧http://vanish2018.jp/)で公開されていたものです。

 鮎川哲也賞佳作となったスリーピング・マーダーものの青春ミステリ『繭の夏』の著者による、ゴシックミステリです。

 一代で財を築き『魔術師』という自伝をものした青茅伊久雄は、瀬戸内海の孤島・盃島《さかしま》を買い取り〈神綺楼〉という屋敷を建てた。引退した青茅は龍済と名乗り、四人の孤児に神秘学を教えていた。平成二十四年、大学生の光田聖は龍済に招かれて神綺楼を訪れる。どうして自分が招かれたのだろうか――。疑問に思いながら過ごすうち、聖は孤児の一人・火美子に惹かれてゆく。やがて龍済のコレクション室〈驚異の部屋〉からの転落死を皮切りに、一人また一人と死者が増え……。

 孤島で育てられた四人の孤児や驚異の部屋《ヴンダーカンマー》など、平成の世を舞台に『黒死館』を彷彿とさせる世界が展開されます。

 ゴシックと現代とは異質とも思える組み合わせですが、実は仕掛けの一つ【※死者の魂を甦らせるため、過去の出来事と同じ舞台を現代に整える】は現代を舞台にしていることに意味がありました。【『十角館』】でおなじみのネタ【※ニックネームによる叙述トリック】を、【固有名詞】で成立させたところには見事に騙されました。

 当然のことながらこれらが成立するためには舞台が作り物の世界でなくてはならないのですが、正直なところ、もっと作り物でもよかったのではないかと思います。どうせ非現実的な真相なのですから、それこそ『黒死館』並みに非現実的な方がむしろ説得力が上がったと思うのですが、現代と接続させなければならないことを考えると、匙加減が難しいところです。

 本書には四大元素ホムンクルスや神秘学が顔を出しますが、なかでも神秘学に基づく仕掛けが作品全体を覆っており、単なる味付けには終わっていません。龍済が火美子に向ける愛情の深さは作中でもしばしば言及されており、狂気ともいえる仕掛けの伏線の一つとして機能していました。

 ただ、その仕掛けに対する反抗の方はしかし、閉じた世界しか知らなかったのだろうとはいえ、死という方法を採らなければならなかったのだろうかと、読み終えてみても疑問が残りました。【※二代目龍済による火美子復活に利用されないために四人の孤児はみずから死を選ぶ

 著者解題によると、『痴人の愛』をモチーフにしているそうです。なるほど痴人・龍済による愛は、痴人・聖によって引き継がれたようです。

 著者ホームページ → https://s-mystery.net/club/


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