『プラ・バロック』結城充考(光文社文庫)★★★☆☆

『プラ・バロック結城充考光文社文庫

 親本は2009年初刊。2008年度の日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

 創元SF文庫から出ている『躯体上の翼』が面白かったので遡って読んでみました。

 喉を割かれて殺されていた殺人現場に臨場した機動捜査隊のクロハは、その場で料金滞納されている貸しコンテナの解錠立ち会いに行くよう命じられる。冷凍コンテナのなかからは十四体の遺体が見つかった。状況から集団自殺であるらしく、死後もきれいな状態でいたがる者たちが冷凍コンテナでの凍死を選んだのだと思われた。遺体の身許は不明なまま、やがてもう一件の集団自殺が明らかになる。やがて遺書と見られる一通のメールが届き、それをきっかけにして遺体の身許はすべて判明した。クロハは遺書に書かれた「記念碑」という言葉に引っかかる。添付ファイルに書かれた数字は何を意味するのか。自殺を主導した首謀者は何者なのか。

 クロハは自殺事件の生き残りを探すが、過去に暴力事件を起こしたと噂される捜査班主任のカガに嫌がらせを受けたうえ、裏社会の人間らしき男にも狙われる。やがて唯一の癒やしである仮想空間の住人から添付ファイル解読のヒントを得たクロハは、記念碑の正体をつかむ。だが完成した記念碑に違和感を感じたクロハは、ついに首謀者の悪意を知る……。

 最初はカガとの対立ばかりでじれったかったのですが、やがてクロハが好き勝手(?)に行動できるようになってからは、ヒーローもののように明快です。事件自体はとんでもなく重くて暗く、主人公も徹底的に打ちのめされますが、それでも読後感は悪くない。

 クロハの姉がいみじくも先天的・後天的を問わず大脳辺縁系の障害だと「悪」を定義したように、犯人は本人も認める人を人とも思わない悪でした。良心なんてないくせに社会に対するエクスキューズとして自分の犯罪に言い訳しているのは、小者なのではなく挑発なのでしょう。ためらいがないぶん強いのだとは思いますが、その強さ・悪賢さは非現実的なほどです。

 主人公の名前クロハ(ハンドルネーム:アゲハ)をはじめ蝶というモチーフが頻出します。記念碑への無意味な嫌がらせに犯人の歪みが表われていました。

 歪みといえばカガもまたあることがきっかけで歪んでしまった人でした。はじめから歪んでいた犯人とは違い、カガは歪んだとはいえ「大脳辺縁系の障害」には至らなかったということなのでしょう。

 その点、終盤に登場する復讐に駆られた人物というのは至ってしまったということなのでしょうか。

 これだけ叩き潰されどん底に突き落とされながら――いやだからこそ再び立ち上がる主人公には力を感じます。続編以降ではさすがにこれ以上の不幸には遭いようがないと思いたいです。

 雨の降りしきる港湾地区。埋め立て地に置かれた冷凍コンテナから、十四人の男女の凍死体が発見された! 睡眠薬を飲んだ上での集団自殺と判明するが、それは始まりに過ぎなかった――。機捜所属の女性刑事クロハは、想像を絶する悪意が巣喰う、事件の深部へと迫っていく。斬新な着想と圧倒的な構成力! 全選考委員の絶賛を浴びた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。(カバーあらすじ)

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