『ミステリマガジン』2024年5月号No.764【シャーロック・ホームズを演じる】

『ミステリマガジン』2024年5月号No.764【シャーロック・ホームズを演じる】

 毎度毎度のホームズ特集ですが、今回は変化球で来ました。

「ノサカラボ 野坂実氏メール・インタヴュー」
 朗読劇というニッチなホームズ。
 

「サー・ヘンリー・バスカヴィル殺人事件」エリザベス・エルウッド/日暮雅通(The Murder of Sir Henry Baskerville,Elizabeth Elwood,2023)★☆☆☆☆
 ――私は効果音に合わせて魔犬を撃った。サー・ヘンリー役のロジャーが野獣に噛みつかれたようによろめき、白目を剥いてステージの床に落下した。凶器は小道具室に保管されていたリヴォルヴァーだった。人目を気にせず現場に行けた可能性のある人物は四人しかいなかった。ロジャーはギャンブルによる多大な借金があった。

 ホームズ劇の最中に起きた殺人事件。基本的な捜査はバーカー警部補が行い、ホームズ役のグラドウィンは最後に安楽椅子探偵みたいにちょろっと切れるところを見せてあとはただの嫌な奴。
 

「ミュージカル『憂国のモリアーティ』アクターズ・レヴュー 目撃者としてその場所で」江中みのり

「魔人モリアーティ アステロイドの秘密」井上雅彦

「ホームズを演じた役者たち 忠実、破壊、実験〜繰り返し観たい三人のホームズ」小山正
 グラナダ版ホームズを演じたジェレミー・ブレッド、『シャーロック』のベネディクト・カンバーバッチ、『エレメンタリー』のジョニー・リー・ミラーについて。
 

森見登美彦氏メール・インタヴュー」
 ヴィクトリア朝京都が舞台の新作『シャーロック・ホームズの凱旋』
 

『テトラとライカ』(1)宮木あや子
 

「『みんなで読む源氏物語』刊行記念 ミステリとしての『源氏物語』、『源氏物語』のミステリ」渡辺祐真×たられば
 さすがにミステリにこと寄せるのはこじつけが過ぎます。
 

「書評など」
『検察官の遺言』紫金陳。この作品云々よりも、「倒叙ミステリというキーワードで語られることの多い紫金陳」という一節に惹かれます。

 2023年11月号で紹介されていたポケミス70周年作品の一つ「ハビエル・セルカス『Terra Alta(漆黒の夜を超えて)』」がいつの間にか刊行されていました。『テラ・アルタの憎悪』

 『推理の時間です』法月綸太郎・方丈貴恵、我孫子武丸・他は、WHO/WHY/HOWをテーマにした「読者への挑戦」付きのアンソロジー。面白いのは「問題編」と「解答編」ではなく、他の収録作家による「推理編」も付いているところです。『毒入り火刑法廷』榊林銘は、『あと十五秒で死ぬ』作者による新作長篇。阿津川辰海『黄土館の殺人』はシリーズ最新作。『ファラオの密室』白川尚史は、第22回このミス大賞受賞作品。古代エジプトが舞台の本格ミステリで、探偵役はミイラ。設定とこのミスという情報からはキワモノっぽいのですが果たして如何に。
 

「迷宮解体新書(139) 加納朋子」村上貴史
 駒子シリーズ最新作にして「これで完結」の『1(ONE)』。20年ぶりだそうです。
 

「〈ミレニアム〉既刊六部作前作レヴュー」樹下堅二郎

「おやじの細腕新訳まくり(34)」

「ジェーン」ジェーン・ガスケル/田口俊樹訳(Jane,Jane Gaskell,1968)★★★☆☆
 ――わたしたちは同じ日に生まれた。ジェーンの世話をするあいだ、わたしは放ったらかしにされた。ジェーンは完璧に成長したが、わたしはそうではなかった。ジェーンはこの家の女王さまだった。冬にはジェーンが暖炉のまえを占領してとぐろを巻くので、わたしはその脇の狭いスペースしか与えてもらえなかった。両親がどうしてヘビなんか好きになったのかわからないけれど、その点を除くといたってノーマルな人たちだった。この世の現実について最初に教えてくれたのはジェレミーだ。隣家に間借りしている家の十歳の子供だった。十一歳になった。ジェレミーが連れ出してくれる約束をした翌日、家庭教師が父を説得し、わたしは寄宿学校に二年間入れられることになった。

 孤独な子どもと動物の組み合わせというと、良かれ悪しかれ子どもの支えとなっているイメージが強いのですが、この作品のヘビの場合は恐怖の対象であり抑圧の象徴――のように一見すると思われます。が、著者と同じジェーンという名を与えられているところからすると、このヘビこそが語り手の分身であり、なりたい自分でもあったようです。
 

「華文ミステリ招待席(14)」

「雪祀り」鶏丁《ジー・ディン》(孫沁文《スン・チンウェン》)/阿井幸作訳(雪祭,鸡丁(孙沁文),2012)★★★☆☆
 ――打ち捨てられた公園のフェンスの向こうで、バラバラに切断され茹でられた死体が発見された。手足は中央のあずま屋に、頭部と胸部と腹部は南北のフェンス際にちょうど正三角形になるような位置に置かれていた。周囲には雪が積もっていて、発見者の足跡しかない。王刑事が被害者の身許特定方法に頭を悩ませていると、その日の未明に夫が誘拐されたという女性からの通報があったことを知らされた。ビデオ通話で犯人に脅されていたようだ。DNAも一致し、被害者はその女性・夏青の夫・張延濤だと判明した。だが雪が止んだのは午前零時だというのに、犯人からのビデオ通話があったのは午前一時だという。では犯人は雪が止んだあとに、足跡を残さず遺体を公園内に運んだというのか? 捜査を進めるうち、被害者夫妻はもともと同じ大学の学生で、七年前にその大学で同じような事件が起きていたことがわかった。

 〝中国のディクスン・カー〟2021年9月号掲載の「涙を載せた弾丸」に続いての二度目の掲載。同じく夏時&王刑事のシリーズです。人体をトリックの道具としか見ていないような潔さがありました。【七年前の事件でも検視した監察医の呉が】七年前の事件に言及しない時点で怪しさ満点なのですが、これは敢えてであって、犯人はわかってもトリックはわからないだろうという著者の自信の表れでしょうか。天気予報通りに雪が止むというご都合主義も、著者にとっては恐らく些末なことなのだと思われます。とは言え【証拠を隠したり捏造したりできる】のであれば、アリバイ作りもさして意味がないと思うのですが。【※ネタバレ 生きている状態で手足を切断し、雪が降っているあいだに手足だけをあずま屋に置き、その後に殺害。切断した頭部や胴体は雪が止んだあとにフェンス際に置いた。これにより殺害自体が雪が止む前だと誤認させられる。茹でたのは切断時間や殺害時間をわからなくするため。
 

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