『ミステリマガジン』2023年1月号No.756【ミステリが読みたい!2023年版】

『ミステリマガジン』2023年1月号No.756【ミステリが読みたい!2023年版】

 ものの見事に知らない作品ばかりで驚きました。ミステリマガジンは書評欄も含めて毎号読んでいるはずなのに。自分のアンテナの感度の低さに呆然とします。『同志少女』は本誌で冒頭だけ読んだ。『地図と拳』は小川哲の新作。
 『地図と拳』以外で面白そうなのは、『名探偵と海の悪魔』、『夜のエレベーター』、『1793』『1794』『1795』あたりでした。そして矢吹駆シリーズ第7作『煉獄の時』が刊行されていたことを初めて知りました。
 

「ポスティッシュ」ミニョン・G・エバハート/小林晋訳(Postiche,Mignon G. Eberhart,1935)★★☆☆☆
 ――伯父のケラー・ウィッゲンホーンが自然死であることを確かめてほしい。それがミリアム・ウィッゲンホーンがスーザン・デアに依頼した内容だった。死亡時、屋敷にはミリアム、看護師のロジーナ、メイドがいて、ミリアムの弟ダリーは出かけていた。ダリーとロジーナは恋仲だった。メイドから発見時の様子を聞いたスーザンは、

 スーザン・デアもの。
 

「おやじの細腕新訳まくり(28)」

「シェフのお薦め」ヘンリイ・セシル/田口俊樹訳(Chef's Special,Henry Cecil,1968)★★★☆☆
 ――原告のブランディッシュはエクセルシオー・ホテルを訴えていた。最高級のもてなしを約束されていたから宿泊したのに、荷物を運ぶ従業員もいないし、ドライ・マティーニも作れないフロント係がバーテンも兼任し、メニュー表もないうえに出されたのは料理と呼べるような代物ではなかった。だが被告側の証人である支配人は、ブランディッシュは確かにホテルに泊まったが自分たちは最高のもてなしをしたと証言したのだ。双方の言い分の食い違いを確かめるため、私(裁判官)たちは実際にホテルで昼食を取ってみることにした。

 謎は強烈ですが、真相がこんな楽屋落ちみたいなのでは何でもありです。
 

「これからミステリ好きになる予定のみんなに読破してほしい100選(最終回)斜線堂有紀の偏愛ミステリ」斜線堂有紀
 有栖川作品から『闇の喇叭』を選んでいたり、島田作品からはペンネームの由来となった『斜め屋敷』ではなく『ネジ式ザゼツキー』を選んでいたりするあたりに著者らしさを感じます。
 

「迷宮解体新書(131)笠井潔」村上貴史
 矢吹駆シリーズ第7作『煉獄の時』がなかなか刊行されなかったのは、現実で起こった様々な事件に対する応答を深めるためだったとのこと。『夜と霧の誘拐』『魔の山の殺人』はそれほど待たずに済みそうなので何よりです。矢吹駆シリーズが、シリーズというか、連作短篇ならぬ連作長篇だということは初めて知りました。折り返しで対になっているのにも気づきませんでした。
 

「書評など」
『1794』『1795』ニクラス・ナット・オ・ダークは、『1793』を含む三部作のスウェーデンの歴史ミステリ。柚木麻子や深緑野分みたいに本が好きなことが伝わってくるようなエッセイは読んでいて楽しくなってくるので、『阿津川辰海 読書日記』も期待できそうです。『ビジュアル&デザインで愉しむ 京極夏彦の世界』は、タイトル通り京極作品のカバーアートを特集したもの。クラシックからはセイヤーズ『ストロング・ポイズン』
 

「ミステリ・ヴォイスUK(134)血と知」松下祥子

「Dr.向井のアメリカ解剖室(122)翻訳について私が常日頃思っていること(上)」向井万起男
 『ロング・グッドバイ』の冒頭場面は、確かにそうなっちゃいますね。鴻巣友季子×片岡義男『翻訳問答』でもこの場面は議論されていました。それにしても田口俊樹訳『長い別れ』は随分とわかりやすく補っています。後発としてはそうするしかないのでしょうが。
 

「華文ミステリ招待席(8)」

「罪悪天使――死神殺し」午曄《ウーイェ》/阿井幸作訳(罪恶天使――谋杀死神,午晔,2010)★★★☆☆
 ――死神と呼ばれる殺し屋・侯天瑋が警察に自首してきた。ボスの劉晟が囲っていた女・許妙佳を殺してしまい、身の危険を感じて警察に保護を求めたのだ。侯天瑋の情報によって劉晟一味はほぼ片付けられたが、ボスの劉晟と軍師の諸葛明だけはいまだ逃亡していた。劉晟のほかに諸葛明を見たことがあるのは甥の秦洋と侯天瑋だけであり、潜入捜査していた程興洋の正体を見破ったのもこの諸葛明だった。秦洋が銃撃戦のすえ撃ち殺された今、諸葛明らを探す手がかりは侯天瑋だけだった。未解決だった許妙佳殺しも侯天瑋の仕業だったことがわかったが、それにしてはあまりに出来すぎだった。黎希穎と恋人の刑事・秦思偉は、許妙佳の部屋を改めて調べたが、ボスの愛人にしてはクローゼットに並んでいたのは質素な服だった。

 工作員・黎希穎《リー・シーイン》シリーズの一篇で、この作品では既に工作員からは引退しているそうです。侯天瑋が何かを企んでいることはわかるし、諸葛明の正体もまあそれしかないわけで、そうなると許妙佳が何者で企まれていたことが何なのかが気になるところですが、真相に繫がるヒントがないので、謎解きミステリという感じではありません。ただ、読みやすさといい真相解明への興味といい、ここ何作かの「華文ミステリ招待席」のなかでもリーダビリティは抜群です。
 

 [amazon で見る]
 ミステリマガジン 2023年1月号 


防犯カメラ