『バスカヴィル家の犬』コナン・ドイル/延原謙訳(新潮文庫)★★★☆☆

『バスカヴィル家の犬』コナン・ドイル延原謙訳(新潮文庫

 『The Hound of the Baskervilles』Arthur Conan Doyle,1901年。

 ドイルが「最後の事件」でホームズを殺してから「空家の冒険」で復活するまでのあいだに書かれた長篇作品で、「最後の事件」以前が舞台となっています。

 依頼人が忘れたステッキから持ち主を推理するお馴染みの場面から幕を開けます。なんだかんだ言ってドイルもノリノリです。

 そして執筆のきっかけとなった魔犬伝説が依頼人の口から語られます。

 ここまでは「ふ~ん」という感じなのですが、エドマンド・ウィルソンの評論タイトルでおなじみの「ホームズさん、それがじつは巨大な犬の足跡なんですよ!(ホームズさん、あれは巨大な犬の足跡でした!)」のところで俄然盛り上がります。この物語作りのうまさはさすがドイルだと思いました。

 法律きちがいの老人が出てくることなどすっかり忘れていましたが、トラブルのエピソードだけでも面白いキャラクターでした。ストーリーに関わってくるのは望遠鏡や娘の話で、トラブルは本筋には関係ないので忘れていたのだと思います。

 それにしてもホームズはやはりお茶目です。ワトソンと再会する場面の演出ときたら、絶対に楽しんでやってるでしょう(^_^。ワトソンもワトソンで、自分は信用されていないのかと憤ったりと、いつもの二人のやり取りに和みます。そんな場面から急転直下で悲劇が起こるのも物語作りのうえで効果的でした。『バスカヴィル家の犬』自体は魔犬伝説に負ぶさりすぎな面があると感じるのですが、こういうところはさすがドイルのストーリーテリングの上手さだと思います。

 それにしてもこの場面でホームズが「足跡なんていうものは、そうやすやすと判定のつくものじゃない」と言ってしまっているのが無性に可笑しかったです。ホームズがそれを言っちゃあ……。

 魔犬伝説ありきの話なので、その殺害方法はどうなの?とか、殺したあとの相続処理の仕方の取って付け感とか、ローラや奥さんといった協力者の扱いの都合の良さとか、細部が大雑把なのは仕方ないにしても、犯人も途中でバラされてしまうし、魔犬以外の魅力が少ない作品でした。

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