『ミステリマガジン』2022年5月号No.752【カムバック、古畑任三郎】
「古畑任三郎とミステリ」三谷幸喜×石原隆
脚本家と企画プロデューサーによる対談です。「毎回新しいセットを建てるのは無理だろう」という、予算面からの困難さというのは視聴者にはなかなかわからないところです。三谷幸喜の記憶が謎ですが、当初の古畑のイメージは玉置浩二だったそうです。『3番テーブルの客』という実験ドラマもあったんですね。
「殺意の湯煙」三谷幸喜(2021)★★★★☆
――シャトー二朗は人気俳優である。シャトーは毎月一人で箱根の温泉旅館を訪れると聞いた私は、同じ旅館の一室を予約した。「こんなところで三谷さんにお会いするとはびっくりだ」「シャトーさん、あなたの芝居は最近アドリブが多すぎる。脚本家が心血を注いで書いた台本を、即興の台詞でぶち壊さないで欲しいんです」「ぶち壊した? 私がいつぶち壊した!」もみ合った私はシャトーを突き飛ばし、シャトーはそのまま動かなくなった。翌朝、黒服の刑事が私の部屋を訪れた。「三谷さんですね。古畑と申します」
朝日新聞に連載されていた「三谷幸喜のありふれた生活」より。まえがき自体もヒントになっていたんですね、やられました。ダイイングメッセージの曖昧さを逆手に取ったような仕掛けが絶妙です。
「古畑な『モデル』たち」菊池篤
カッコ付きの「考察」や妄想の類の気がします。
「ミステリ・ディスク道を往く 特別篇(23) 永遠のフルハタ・ミュージック」糸田屯
「おやじの細腕翻訳まくり(25)」
「手負いのトラ」ジョン・ラッツ/田口俊樹訳(The Wounded Tiger,John Lutz,1963)★★★★☆
――ハンターのホルカムは、ハンティング関連会社のフォン・アイルから話をもちかけられた。「あなたはほぼすべての獲物を仕留めてこられた。まだ仕留めていないのは人間だけです」「それは法に触れるからね」「弊社の仕事はその動物を仕留める機会をあなたに提供することです。あなたの獲物はこのゲームに参加することに同意しています。獲物の写真や泊まるホテルはまえもってお知らせします」「相手にも同じ情報がいくんだな?」。獲物は前にもゲームに参加したことがあり、ハンティングではホルカムのほうが経験豊富だが、この点を考えると互角の闘いになりそうだった。
所詮は殺し合いではあるのですが、飽くまでゲームであるがゆえのルールがありました。そこが人殺しやハンティングとはまた違ったところだったのでしょう。対等ではなく自分が上だと思い込んだ時点で結果は決まっていたのかもしれません。
「迷宮解体新書(127)誉田哲也」村上貴史
「書評など」
◆『かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖』宮内悠介は、「G・K・チェスタトン的な逆説推理を特色としている」そうです。
◆『名探偵に甘美なる死を』方丈貴恵は、竜泉家シリーズ三作目。
◆『創られた心 AIロボットSF傑作選』は、書き下ろしアンソロジーのまるまんま翻訳書。とはいえ出来はけっこういいようです。
◆『世界推理短編傑作集6』『短編ミステリの二百年6』。「ジェミニー・クリケット事件」の英版と米版の違いを、ミステリ的な辻褄の点から評価しているのが新鮮でした。
「華文ミステリ招待席(4)」
「あなたの人生のマジック」許言《シュー・イェン》/阿井幸作訳(你一生的魔术,许言,2019)★★☆☆☆
――名実共に「キング・オブ・ミステリー」であるベストセラー推理作家の高従遠の許に、黒い封筒に入ったサーカスの招待券が届いた。父である古典的推理作家・高元のファンであるという奇術師・呉は、高従遠の小説を批判し、高元の遺稿の場所の手がかりを記した黒い封筒を譲るよう迫った。断ろうとする高従遠に、呉は勝負を持ちかけた。鍵の掛かった金庫の中から封筒を消してみせるというのだ。
金庫のなかからものを取り出すという不可能ミステリとしては面白いものの、父親の遺言とかいうほとんど意味不明な動機を取って付けたせいで台無しです。ましてや息子がなぜかあっさりと改心してしまうものだから、安っぽさ嘘くささが止まることを知りません。
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