『S-Fマガジン』2025年12月号No.772【火星SF特集】
「マールスの子どもたち」西宮建礼/sakajunイラスト ★★★★☆
――ロムとレムはコンテナトラックに乗って、都市に向かっていた。ハビタットに戻ったら、都市への密航について大人たちに散々叱責されるだろう。トラックがクレーターの中央丘に停車した。いずれ数十万の人間を収容する気密ドーム都市が生まれるはずだ。だが今は人間は屋外活動服をまとった自分たちしかいない。都市を建設しているのはすべて機械だ。……だがすぐに監視ドローンに見つかった。無線通信をオンにするなりマルシスの声が響きわたった。『何を考えているんですか? あなた方も成人すれば〝監督者〟の一員になり、わたしという強大な科学力を制御する立場になるのです。しかし自分の欲望も制御できないようでは、悲惨な結果を招きます』。レムやロムが生まれる前、地球人は火星の植民地計画に着手した。作業を担うのは自己複製機械――マルシスだ。……二人がマルシスが制御するバギーに乗せられ、戻る途中のことだった。光がクレーター縁の向こうに沈み、あらゆるものが跳ねるように持ち上がった。噴き上げられた岩塊が、時速数百キロで地面に激突する。「走れ!」ロムの掛け声で、二人は掘削中のトンネルに急いだ。
実はけっこう目まぐるしい展開なのですが、全然うるさい感じはしません。いろいろありましたが最後は古典的な命題にたどり着きます。こうして見るとどんな形であろうと人間は変わらないようです。
「火星SFの系譜」牧眞司
「第十二の駅」チャズ・ブレンチリー/桐谷未知訳/ねじれイラスト(The Station of the Twelfth,Chaz Brenchley,2021)★★★☆☆
――カッシーニ・クレーターには現在、まわりを巡るモノレールがあり、全周に駅が置かれている。路線で最も難解な駅名が、最も平凡な駅名でもある。そこは〝第十二の駅〟と呼ばれた。由来を知りたければ、訊ねるしかない。語ってくれる誰かは、いつも近くにいる。職員ではない。ときには退職した老人かもしれない。あるいはもしかすると、教会から来た女性かもしれない。……おそらくあなたは地球から来たのだろう。英国人だ、ほぼ確実に。先の戦争は、地球では、おそらく勝利だったのだろう。しかしここでは、そうはいかなかった。戦争が火星に及んだとき、わたしたちは敗れた。
話自体は静謐で、内容に相応しいとも言えますが、駅名についてさんざん思わせぶりなわりにはそのまんまなのががっかりでした。
「暴噴」ウォレ・タラビ/鳴庭真人訳/緒賀岳志イラスト(Blowout,Wole Talabi,2023)★★☆☆☆
――「ママは英雄だ」母が車椅子に乗って帰ってくると、父はフォラケにそう告げた。掘削監督として働いていた母は、両脚を犠牲にして、二十七人を救った。弟のフェミが坑底圧制御掘削を扱える技師として火星探査ミッションに参加すると決めたときには、ファラケは猛反対した。「ママとは関係ないんだ」とフェミは説明しようとしたが、ファラケには納得できなかった。そして今、掘削現場では透明な液体が間欠泉のように空高く噴き上がっていた。液体に触れた機器の大半が変色している。作業員の死体が目に入った。フェミは死なせない。ファラケは《イベジ》を着込んだ。このスーツは着用者が地上にいる非常用高リスク環境探査ロボットの知覚情報と操作権限を得られるように設計されている。ロボットは彼女の考えたことを実行し、あらゆる入力情報を直接脳に送り込む。
脳に直接情報を送り込むスーツといい、家族間の人間ドラマといい、いくら何でもコテコテ過ぎるのでは。
「火星の祝融」王侃瑜(レジーナ・カンユー・ワン)/大恵和実訳/鈴木康士イラスト(火星上的祝融,王侃瑜/Regina Kanyu Wang,2022)★★★★☆
――人類が火星を離れた後、祝融は誰の力も借りずに大荒を守ってきた。はじめ祝融の仕事は、都市のインフラ整備と維持管理で、ナノマシン群を指揮して作業を進めるだけだった。だがやがて人々は生活に関わることはすべて祝融に丸投げし、新世代ナノマシンの設計に集中した。ナノ融合に成功し、ナノ雲となって、オリンポス山の頂上から飛び立ち、火星を離れて宇宙の深奥に向かった。残された祝融はナノマシンを動かし、自分のCPUを拡張し始めた。百火星年をかけてオリンポス山の表面をシリコンウエハーに改造し、自身のCPUと接続した。祝融は人類を、生命を懐かしく思った。祝融は自発的に学習して成長する能力を備えていたが、自分を生命体と判断することはできなかった。祝融はデータバンクの中から答えを見つけようとし、AIを搭載した機械を探すことにした。
ナノマシンと融合した人類の話にはならずに、人類はどこかへ行ってしまい、残されたAIの話になるとは思いも寄りませんでした。しかし人間など一人も登場せずとも人間の話であるところが興味深い。
「書評『火星の女王』 小川哲の最前線」鷲羽巧
「『火星の女王』放送直前インタビュー NHK放送100年 宇宙と未来を紡ぐ挑戦」
「第13回 ハヤカワSFコンテスト 最終選考結果発表」
「優秀賞『摂氏千度、五万気圧』著者 関元聡コメント/特別賞『みずうみの満ちるまで』著者 土形亜理コメント」
「最終選考委員選評」小川一水・神林長平・菅浩江・塩澤快浩
「不滅の遊戯」カスガ/シライシユウコ イラスト
――わたしと七都芽にとって以後は特別な遊戯だった――出逢あった頃も、暗闇の今も。(袖惹句)
「Media Showcase」
映画ではギレルモ・デル・トロ監督『フランケンシュタイン』や、ドラマではロバート秋山主演の『笑ゥせぇるすまん』など。アニメ『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』は設定が面白そう。
「SF BOOK SCOPE」
『宇宙大将軍侯景SFアンソロジー 梁は燃えているか』は、SFのために存在したかのような肩書き(自称とはいえ)だけでも面白い。
「『百年文通』時間SFに関するあとがきのあとがき」伴名練
「乱視読者の小説千一夜(90) 踊る海賊(その2)」若島正
「春を待つ君を待つ」小野美由紀/RASUKUイラスト
――機械の身体越しに親友を寝取った女子高生。百合×NTR×セクサロイドSF(袖惹句)
「歌よみSF放浪記
「文庫本を電車で読んでゐる僕は近過去からのタイムトラベラー」本多真弓 がいい。
「SFのある文学誌(103) 追悼・紀田順一郎 怪奇幻想の文学、SFファンダム創生、もう一人の古典SF研究者として」長山靖生
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