『revisions 時間SFアンソロジー』大森望編(ハヤカワ文庫JA)★★☆☆☆

『revisions 時間SFアンソロジー大森望編(ハヤカワ文庫JA

 時間SFアニメ『revisions』放映に乗っかって編まれた時間SFのアンソロジー。アニメとは内容は無関係の純粋なアンソロジーです。未知の作家と好きな作家だけ読みました。
 

「退屈の檻」リチャード・R・スミス/大森望(The Beast of Boredom,Richard R. Smith,1958)★★☆☆☆
 ――暗やみの中でなにかが動き、反射的にライフルをかまえた。火星人の震える両手が持ち上げた。彼はひきがねを引いた。火星人の体を調べると、武器ではなく宝石だった。彼はアパートメントに戻り、金属の球体から宝石をはずした。ルビーがテーブルを転がって、床に落ちた。彼は洗面所に行った……。ルビーがテーブルを転がって、床に落ちた。洗面所から移動した記憶がないのにテーブルの前にすわっている。二度目だ。あれは宝石ではなく時間の罠だった。

 未知の作家なので本書のなかで一番期待していたのですがイマイチでした。編者によると、ループものの日本の源流である筒井康隆「しゃっくり」に影響を与えた作品だそうです。ループからの脱出は早々と諦めて、10分間のループのなかで如何にして退屈を紛らそうとするかに切り替えていましたが、出来ることなど限られており、やがて精神の限界が来てしまうというよくある内容ではあります。
 

「ノックス・マシン」法月綸太郎(2008)★★☆☆☆
 ――上海大学のユアン・チンルウは二十世紀の探偵小説を研究していた。先達がヴァン・ダイン「探偵小説二十則」を解析モデルとして使用して失敗したと考え、「ノックスの十戒」にたどり着いた。だが十戒には政治的に正しくない記述があった。第五項 中国人を登場させてはならない。はじめ第五項を除いて失敗したため、No Chinaman という隠れた変数を導き入れる。タイムマシンの研究をしていた国家科学技術局がそこに目をつけた。タイムパラドックスは発生しない。過去にたどり着いた時点で世界は分岐してしまうため、時間旅行者は元の世界には戻れない。だがノックスが十戒を書いた日だけニュートリノが観測できないという。その日になら往復が可能なのではないか……。

 ノックスの十戒の中国人の項目をネタにタイムトラベル作品を書きあげるという、どこからこういう発想が出てきたのかさっぱりわからない異色作です。前半の数理文学解析は悪ノリで、ネタとしては面白くても、なくてもいい部分でした。しかも中国人の項目があるのは、ノックスの目の前に中国人がタイムトラベルして来たからというベタなオチで、結局は悪ノリだけの作品でした。
 

「ノー・パラドクス」藤井太洋
 

「時空争奪」小林泰三
 

「ヴィンテージ・シーズン」C・L・ムーア/幹遙子訳(Vintage Season,C. L. Moore,1946)
 

「五色の舟」津原泰水(2010)★★★★☆
 ――お父さんがくだんを買い取って一座に加えたいという。くだんはすぐ死ぬというのは(面倒見が悪いのだ)という。お父さんは捨てられていた僕のことも、死んだ姉妹の上半身がくっついていた桜のことも、死なせはしなかった。牛女の清子さんは買い取りに反対していたけれど、結局くだんは軍に接収されてしまった。僕は同じような夢ばかり見るようになった。僕らは舟ごと、海原を漂っている。ふと似たような舟影が現れる。接近して船頭が縄を投げてきた。ぶつかる前に繫留しようという提案だろう。お父さんが躄ってきて、縄で自分を縛り、海に飛び込む。新しい舟に引き上げられると、舟同士がまた離れはじめる。

 家族のような見世物一座。その家族が一人ずつ舟を乗り移る夢とは、死の世界へと赴くメタファーだと普通は思います。くだんの予言で戦争の行方が明らかにされるのだからなおさらです。それがまさか、くだんはパラレルワールドへの移動装置だったというSF展開に。もちろんパラレルワールドとかSFなんていう雰囲気をぶち壊すような用語は使われてはいませんが。一座は新しい世界で新しい生活を得ますが、もともと不幸ではないので新たな世界でもそれまでと変わらないというのが良いです。

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