『昭和の怪談実話ヴィンテージ・コレクション』東雅夫編(メディアファクトリー 幽Classic)★★★★☆

 昭和初期に発行された実話系怪談本より、稀覯書四冊を選び抜粋して収録したもの。現代の実話怪談風の型に嵌ったものではなく、ひっちゃかめっちゃかな分だけ楽しめました。表紙のイラストは原著のものが採用されています。

『古今怪異百物語』

 原著にはきっちり百篇収録されているそうです。

 交通事故に遭ったときにたまたま骨壺を抱いていた、というだけで怪談なんだか何だかわからない「骨壺を抱いて死んだ女」。船室に阿片のパイプと煙だけが残されていたという、実話というより怪奇小説の翻案を思わせる「阿片心中」。恨みによる怪談かと思いきや豪傑肝試し譚の常道を踏まえたユーモラスな「怪猫愛猫」。などを収録。
 

『怪異怪談集』

 原著より、「泰西幽事三題」「影法師」「ズボンを穿いた骸骨」を収録。鈴木寿雄による装幀がモダンです。

 泰西三題は、いわゆる「実話怪談」というよりは、伝説集といった趣の作品です。臣下の讒言を信じた侯爵に拷問死させられた妻の祟り「古城の怪」。どの車輛にも同じ男が乗っている怪異「列車中の死神」。ふった女の顔が新しい女の火傷に浮かび上がる「マルゲリットの顔」。

 ズボン……の話は超常的な怪談ではなく猟奇譚でした。行方不明になった大学教授の行方を追った探偵は、教授と最後に接触を持った人物が若者のズボンを食べているのを目撃し……。探偵物語だと思って読むと動機のあまりの変態さにずっこけます。
 

『扉の怪異』

 並木一郎による「怪談三話」を収録。「船の怪(金色の魚)」は、その船室に泊った客は必ず海に出てしまうという西洋怪談風の怪異と、釣った魚の祟りで魚の背に乗せられて連れ出されてしまうという民話風の怪異が混ざり込んだ作品。「汽車の怪(人魂は招く)」はディケンズ「信号手」風の話。「宿の怪(うそからでたまこと)」は、集客目的で幽霊のからくりをでっちあげた女将に跳ね返る祟り。
 

『オール怪談』

 もはや実話でも何でもない荒唐無稽な怪奇譚なのですが、一応「怪奇実話」と銘打たれています。愛人の脳を飼い犬(狼との合いの子)に移植するが――という「怪奇実話 呪いの狼女」(高木哲)を収録。

 


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