「回転クオリア」「お姉ちゃんの妹」「カナリアたちの舟」『月刊アフタヌーン』2015年9月号

 四季大賞+読み切り掲載。

おおきく振りかぶって』122「田島の」ひぐちアサ
 テスト前の部活休み。田島の家まで練習に。

「回転クオリア」秋州良屋 ★★★★★
 ――不登校の空《そら》はある日老婆から声をかけられた。記憶・知識も含めて完全に死んだ男のコピーが存在しているという思考実験がある。直観像記憶を持つ空に記憶や知識をすべて覚えてもらい、自分の身代わりになって欲しいと老婆は言った。自分の葬式の時くらいにしか帰ってこないであろう孫に謝るために。

 四季大賞受賞作。狂気か冗談かのような老婆の頼みに押し流されて、起こるはずのないことが起こります。直観像記憶どうこう以前に、天性の女優ですね。荒唐無稽な「身代わり」論を聞かされた後では、16年ぶりに会う孫に謝るという風変わりな願いを何の疑問も感じず受け入れてしまえました。しかも思考実験の後には人情で――という落差も大きい。このお婆ちゃんは策士ですよねぇ。後半ではそんな策士ぶりもはっきりと明らかになり、奇跡の皮なんて剥がれてしまいます。――が、お婆ちゃんの論理のなかでは、願いはちゃんと実現しているというところも面白い。繊細な絵柄が綺麗です。
 

マージナル・オペレーション』26「公園での再会」芝村裕吏キムラダイスケ

げんしけん 二代目』114「くじびきアンバランス3」木尾士目

『Vet's Egg』ほづみりや
 読み切り「Vet's Egg」を経て新連載。獣医学部の物語。自分の無知から飼い犬を死なせてしまった暁は、そんな悲劇を繰り返さないためにも獣医師をめざし、獣医学部に入学する。だが解剖実習に当たって飼い犬のことが脳裡に浮かび、メスを持ち続けることができなかった。
 

カナリアたちの舟』2「森」高松美咲
 ――橋を渡った先で聞こえた声。それは「僕は機械だ。この森一帯の動植物を管理する役割を担うシステムだよ」と答えるのだった。

 実にあっさりとバラされました。けれど攫われた意図も理由も不明のまま。すでにこの星に順応させて人体改造されてしまいもう地球環境では生きられなくなってしまったと知らされたあとの、「痛いのに」のひとことに絶望が詰まっていました。
 

『マイボーイ』18 木村紺
 

「お姉ちゃんの妹」森田るい ★★★★☆
 ――授業中に携帯の電波を受信した。お姉ちゃんが大学に合格した。家を出てしまうのだ。「お姉ちゃんがいなくなるなら、あたしだって家を出てやる」学校をやめて屋上のフェンスを飛び越えた。

 「マキと渡とすげえキモチ悪い虫」「みずうみ」の昭和臭・アングラ臭が抜けて、ずいぶんとライトな作風になりました。ほんとうの姉妹ならここまで近づけなさそうな距離感を、ロボットゆえに却って懐に飛び込んで行けているような気がします。読む前は、当たり前じゃん!と感じていたタイトルでしたが、内容を知ってみれば実にしっくりと来ています。
 

  


防犯カメラ