『海へ出るつもりじゃなかった アーサー・ランサム全集7』神宮輝夫訳(岩波書店)★★★★☆

 『We Didn't Mean To Go To Sea』Arthur Ransom,1937年。

 航海から帰ってくるおとうさんに会いに、ハリッジにやって来たウォーカー一家。そこで若者ジム・ブラディングと知り合い、ウォーカー兄弟たちはジムの船に泊まって川上りをすることに。だがジムがガソリンを買いに行っているあいだに、潮が満ちて錨が流されてしまう。ジョンは懸命に努力するが、船はとうとう港外に。かくしてジョン、スーザン、ティティ、ロジャは子どもたちだけで航海しなければならなくなった。

 ランサムの特徴である詳細な船舶用語・技術の真価が遺憾なく発揮された作品でした。子どもだけで海へ投げ出されはしたものの、「食べ物はどうしよう?」という不安や「おまえのせいだ!」という仲間割れもなく、そこはウォーカー兄弟のこと、冒険の中心は「如何にして船を操り海を乗り切るか」という点にかかっているのです。

 局面ごとに、予備の錨を下ろし、帆を張り、霧笛を鳴らし、舵を切り、信号灯をつけ――パニクったり上手くいかなかったりもするけれど、できうるかぎりの最善を選んでゆくその実践的なサスペンスは、ちょっとほかの小説ではなかなか味わえない熱気と魅力に満ちていました。

 そしておとうさん、かっこいい。

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