「TWO MEETS」伊丹来(good!アフタヌーン2019年12月号)

good!アフタヌーン』2019年12月号(講談社

亜人」74「フラッド」
 オグラ博士、久々の登場。暴走IBMが人を襲い始めます。
 

「ルナティック・パレス」安居
 ――教師の久瀬桐子はすぐにいらいらしてしまう。そのヒステリーぶりにクラスメイトはドン引きだったが、慎太郎は久瀬に魅かれてゆく。

 第11回四季賞新人戦。「確率よこんにちは」の著者。ご都合主義で表現力もないので終始のっぺりとしていました。
 

「TWO MEETS」伊丹来
 ――ハルは格闘技が好きだったが、自閉症スペクトラムのためどこの職場でも長続きせず、仕方なくプロレスのジムで働かせてもらっていた。トラブルばかり起こすハルに、レイだけは優しかったが……。

 四季賞2019秋のコンテスト四季賞受賞作。なんでアスペルガーの人がプロレスの魅力に気づいた途端に他人とコミュニケーションが取れるようになるんだか。適当すぎます。
 

  

『邪眼』ジョイス・キャロル・オーツ/栩木玲子訳(河出書房新社)★★★★☆

 『Evil Eye: Four Novellas of Love Gone Wrong』Joyce Carol Oates,2013年。
 

「邪眼」(Evil Eye)★★★★★
 ――それは最初の妻のものだ、と彼は言う。ナザールと言って、邪眼を払うお守りだ。彼女はその男の四番目の妻だった。結婚して数週間後、レセプションを開くというので家具を動かしただけで、夫は激怒した。馬鹿な私。でもここから学んでいかなくては。五番目の妻が現れるなんて考えたくもない。

 理不尽で独善的な夫に、そんな夫を刺激しないよう努める卑屈な妻。DV家庭や支配関係の心理が恐ろしいまでに詳細に描かれています。独善的な夫の姿に、身近にいる人間を連想し、まるでその当人のよう、とさえ思ってしまいました。飽くまで支配的な夫とその妻たちの物語だと思っていると、不意に狂気の可能性が浮上してきてぞっとしました。視点人物に寄り添うような読み方をしていると、こういうときに自分も狂気に陥ったようで眩暈がします。
 

「すぐそばに いつでも いつまでも」(So Near Any Time Always)★★★★☆
 ――私は十六歳だったけど、ボーイフレンドは一人もいなかった。それまでは。キスされたこともなかった。それまでは。母親はデスモンドに魅了されたけれど、姉のクリスティーンは「あれは全部お芝居」だと言った。家に遊びに来たデスモンドが披露してくれたヴァイオリンは、完璧とは言えなかった。

 デスモンドの支配的自己中心的なところは、他の多くのオーツ作品に登場する暴力的な男と同じように見えますが、はっきり異常者だと明記されているのは珍しいような気もします。もちろん明記されているかどうかというだけであって、出てくる男たちが異常なことに変わりはないのですが、法律的医学的にラベルを貼ってもらえるだけで随分と怪物感は減るものです。ところがそれで普通のサスペンスっぽいな……と拍子抜けしていたら、デスモンドの両親による別の角度から恐怖が待ち受けていました。
 

「処刑」(The Execution)★★★☆☆
 ――彼が寮を出たのは午前一時半。みんなはパーティに夢中だ。計画は秒刻み。しかも目撃者はいない。実家のドアを開ける。父親の顔は怒りと驚きで真っ赤になっている。斧が目に入らないのかよ、ったく。離れたところにはおふくろがいる。息子はやみくもに斧を振り下ろしている。警察は寮で事情聴取をおこなった。〈両親が――殺された?〉〈なぜおかあさんは死んだと思った、バート?〉

 帯にも引用されているメタリカの「Die, Die My Darling」の歌詞が印象的な作品です。これも殺人者のキチ描写から一転、意外な展開を迎えます。バートの思考回路はこういう人物の例に洩れず、すべてが自分に都合のいい考え方なのですが、この作品の恐ろしいのは、世界がバートに合わせて都合よく動いているようにも見えるところです。
 

「平床トレーラー」(The Flatbed)★★★★☆
 ――僕のせい?とNは言った。自分のベッドで、男の腕に抱かれているのに起こる、痙攣じみた滑稽な震え。あのことは誰にも話してない。決して誰にも。家で、家族に。彼は彼女に忠告した。〈これは私たちの秘密だ。内緒にしなきゃダメだよ〉

 珍しく救いのような形が描かれています。それが本当に救いかどうかは別にして。これも珍しく連れ合いに優しいところを見せる男性Nですが、それが誰に向けられているかという点を除けば暴力的な発作を見せていることには違いなく、そういう意味では結局のところNもまた本書のなかの男たちと同じなのかもしれません。
 

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「都市伝説パズル」法月綸太郎(講談社文庫『法月綸太郎の功績』より)

「都市伝説パズル」★★★☆☆
 ――先輩を起こさないように暗闇のなか忘れ物を取って戻った翌日。先輩は死体で発見され、壁には「電気をつけなくて命拾いしたな」の文字が。都市伝説そのままに起こった殺人事件。法月警視の話を聞いた綸太郎は、メッセージを書くことで得する者は誰かと考える。

 第55回日本推理作家協会賞受賞作。話を聞いただけで推理する安楽椅子探偵ものということで、著者の作風の柱の一つであるロジックを純粋に堪能できる作品となっていますが、いかんせんケレンがなさすぎて物足りない部分もありました。
 

  

『琅邪の鬼』丸山天寿(講談社文庫)★★☆☆☆

 古代中国を舞台にした――というと、すぐに伝奇小説を連想しましたが、本書にはさほど伝奇要素はありません。

 確かに巫医は登場し、卦を立てたり思念を聞いたり五里霧を起こしたりします。忍者のような戦闘集団も登場します。真相はどろどろしたものでした。

 けれどどろどろしているわりには作品全体のタッチが明るく軽いので、読みやすいし読後感は悪くないのですが、内容と作風にちぐはぐな印象を受けてしまいました。どろどろに相応しい文体、もしくは作風に相応しい真相を用意してほしかったところです。

 死体消失や死者復活や家屋消失といった大がかりな謎が出てきます。死体消失や死者復活に関しては、当時の状況や作品内の人間関係を鑑みるにしても、もう少し確認ぐらいしろよ、と思ってしまいましたし、家屋消失に関しては「Why」の理由があまりにも現実的すぎて、ミステリの解答としては物足りませんでした。

 秦の始皇帝に不老不死の仙薬の入手を命じられた伝説の方士・徐福の塾がある、山東半島の港町・琅邪で奇怪な事件が続発。求盗(警察官)の希仁と、易占術、医術、剣術などさまざまな異能を持つ徐福の弟子たちが謎に挑む! 古代中国の市井の人々を生き生きと描いた痛快ミステリー長編。メフィスト賞受賞作。(カバーあらすじ)
 

  

『マノロブラニクには早すぎる』永井するみ(ポプラ文庫)★★★☆☆

 一応はミステリの形が取られているものの、海外文学希望だったのに女性ファッション誌に配属されてしまった主人公が、偶然から関わりになるカメラマンについて、「本当に撮りたかったのは野生動物だったのかもしれないが、(中略)女性ファッション誌での撮影も引き受け、(中略)真摯な姿勢で仕事に取り組んでいた」「それがプロっているものなんだ」という当たり前のことに気づいてゆくような、成長小説でもあります。

 目を肥やすために銀座を歩き回り、撮影場所の予約日を間違えた災いを転じて福と為し、同僚の妬みに足を引っ張られ、主人公は少しずつ成長してゆきます。

 タイトルになっているマノロラニクとは、憧れの編集長が履いている憧れの靴のブランド。

 主人公にはマノロラニクはまだ早すぎるようですが、似合っていたはずの登場人物もまた別のところで無理をしていたようで、一生懸命に生きるというのは難しいものです。

 小島世里は念願の出版社に就職を果たしたものの、まったく興味がないファッション誌編集部に配属されて落ち込む日々を送っていた。だが、父親の死に不信を抱く少年・太一との出会いをきっかけに、世里の日常は大きく変わっていく――さわやかでほろ苦い青春ミステリー。(カバーあらすじ)
 

  


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