『石の繭 警視庁殺人分析班』麻見和史(講談社文庫)★★★☆☆

『石の繭 警視庁殺人分析班』麻見和史講談社文庫)

 シリーズタイトルの「殺人分析班」とは、警視庁捜査一課第十一係のメンバー5人が捜査会議では出来ない推測や議論を、居酒屋で話し合う集まりにつけた名前です。

 主人公は新人刑事の如月塔子。病死した警察官である父の意志を継いで警察官になったものの、童顔で小柄なことをからかわれるような外見の持ち主です。コンビを組む指導役の鷹野警部補は、百均のアイデアグッズを集めるのが趣味という変な人でした。

 警察小説というと捜査の様子が描かれていることが多いと思うのですが、本書は捜査会議(と居酒屋会議)にけっこう筆が割かれています。わりと珍しいなあと思っていたら、それはもちろん会議中に犯人から電話が掛かってくるという設定のためであり、さらには会議中の電話にもちゃんとした意味があることがわかります。

 鮎川賞でデビューしただけあって、本格ミステリ的な構成はお手のもののようです。

 それだけに【かつて誘拐事件でミスをした刑事の娘である塔子に復讐する】という犯人の真の狙いはわかってしまいますが。

 犯人とのゲーム性のある競い合いによって、捜査ものとして息苦しいサスペンスも醸し出されていました。

 それなのに、最後に犯人が吐露する動機があまりにも子どもっぽくて、すべてが台無しになってしまいました。犯人の告白によって真相が明らかになるタイプのミステリの弱点かなあと思います。

 ただ、作者の覚悟のようなものも感じられて、もし何かが違っていれば悲劇は起こらなかったのに――という逃げ道を犯人に用意していません。それはもう徹底的に逃げ道を塞いでいます【※父親が自分と母親誘拐の主犯だった。自分は母親と不倫相手の子どもだった】。だから敢えての犯人像ではあるのでしょう。

 鷹野をはじめとして、殺人分析班のメンバーには変な趣味があるのですが、それがすべて仕事に必要なことだったとのちに明らかになります。とは言え昔話や児童文学に登場する知恵と勇気と力持ちの三人組みたいなキャラ付けは、正直なところシリアスな内容とちぐはぐな印象しか受けませんでした。

 所轄署の根本だけはただ単に如月のことが嫌いなだけで、特に意味のあるキャラクターではなかったようです。

 面白いけれどバランスが悪い作品でした。

 モルタルで石像のごとく固められた変死体が発見された。翌朝、愛宕署特捜本部に入った犯人からの電話。なぜか交渉相手に選ばれたのは、新人刑事の如月塔子だった。自らヒントを提示しながら頭脳戦を仕掛ける知能犯。そして警察を愚弄するかのように第二の事件が――緻密な推理と捜査の迫力が光る傑作警察小説!(カバーあらすじ)

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