『ミステリークラシックス〜甦る名探偵達〜 ブラウン神父編1』森元さとる(講談社)★★☆☆☆

「翼ある剣」「秘密の庭」のブラウン神父譚二篇に、『探偵小説の世紀』よりベリスフォード「偽痣」とド・ヴィア・スタクプール「真珠のロープ」を収録。

 ブラウン神父の漫画化ということで読んでみました。

「翼ある剣」――言わずと知れた超名作。しかし雰囲気までは漫画化できません。チェスタトンの筆になるからこその傑作であって、漫画化されてしまうと荒唐無稽さが目立ちすぎるのは仕方のないところでしょう。忘れようのない恐ろしいはずのトリックも、絵にするとなんだか情けない……。

 でも弾の装填に関する部分は原作よりもこちらの方がうまい。見取り図があるのも漫画ならではです。翼ある剣のマークがいかにもそれらしくていいですね。ブラウン神父は残念ながらちびででぶというよりは、巨漢に見えてしまいます。

「秘密の庭」――こちらは原作を読んだときも、凶器と首の発見場所に誰も違和感を感じなかったことや被害者の身元に誰一人として気づかないことなどが、しっくりこなかったのですが、そこが漫画ではうまく処理されていました。被害者の身元を絵で見せるためにはこうするしかなかったのでしょうが、結果的に原作より説得力が増しました。そのかわり驚きは減りましたが。凶器と首の在処は、これまた見取り図&高い塀と広い庭の絵。一目でわかるので説得力がある。理性を信じるあまりに罪を犯した真犯人の動機が、すっきりわかりやすい(けれどそれゆえに下世話な)ものに変わっています。狂気とはいえ信念に殉じた犯人が、これでは私欲によるちっぽけな犯罪者みたいで少し悲しい。

「偽痣」――こりゃまたなんと、あかね書房かどこかの少年向け推理叢書の挿絵のような、極太眉毛の劇画調名探偵です。雰囲気もスコットランド・ヤードというよりハードボイルド探偵だし。原作は未読。チェスタトンみたいなトリック。けれど使い方やストーリー展開が古典的。なんと「のど斬り農場」の作者だそうです。そう聞くと原作もちゃんと読んでみようかなという気になりました。

「真珠のロープ」――すごい邦題だな……。これも原作は未読。犯人特定の論理(というほどでもないが)はわりと好きです。古畑みたいといおうか。真珠の隠し場所はやりすぎの感があるが。原作は未読だけれど、チャルク本部長の性格はかなり脚色されているような気がする。こんなにお茶目ではないだろうて。けっこう面白かった。ほかの三篇とくらべても、いちばん原作の漫画化くささがない(オリジナルのミステリ漫画と言われても納得できそうな)作品。
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mystery classics ブラウン神父編1
森元 さとる
講談社 (2005.4)
ISBN : 4063709868
価格 : ¥410
通常2-3日以内に発送します。
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『ダ・ヴィンチ』2006年2月号

白夜行』ドラマ化に伴う、東野圭吾×綾瀬はるか対談収録。東野氏のことば「たとえば“この人を守るためだったら自分は死ねる”というふうな言い方をするとキレイに聞こえる。でも“この人を守るためなら他の人は死んでもいい”となると、全然違うでしょう。(中略)それが『白夜行』の世界、『白夜行』における純愛なんです」。なるほど。

特集の一つがミニシアター映画だが、紹介されているのは今さらな感じの作品ばかり。

トロ・リサーチでは無人駅が編集部の新雑誌『あたらさん』に直撃。『あたらさん』的なものに興味がなくっても、「無人駅が編集部」てところがどうしたって気になります。

『百年の誤読』今回は『夜間飛行』『大地』『夜の果てへの旅』『八月の光』『Yの悲劇』の五作。

清涼院流水西尾維新の対談が載っていた。こんなレベルの話だけで3ページっていいんだろうか……。

コミック・ダ・ヴィンチ漆原友紀蟲師』。な〜んか気持ち悪そうで読んでなかったんだけど……。

「読んでトクする20冊」で気になったのは、佳多山大地紹介『悪女パズル』クェンティン『摩天楼の怪人』島田荘司(論理性★★に爆笑。貶してるわけじゃなくて、そこが島田ミステリの魅力)。清水良典紹介『ニート絲山秋子(『ニート』というタイトルを聞くと、なんだか世間を騒がす社会問題に軽くあやかったか、……という紹介文に引き込まれる。わたしもタイトルだけでそう思っていました。先入観はいけませんね……)。豊崎由美紹介『ぼくのともだち』ボーヴ『スクラップ・ギャラリー』金井美恵子豊崎氏はきっと金井美恵子の本なら何でも誉めるだろうなとは思いつつ)。吉野ハルヲ紹介『「朝日」ともあろうものが。』烏賀陽弘道。大寺明紹介『この哲学者を見よ 名言でたどる西洋哲学史』エマヌエーレ。新保信長紹介『明治大正翻訳ワンダーランド』鴻巣友季子(既読ですが改めてナルホド)。

注目本で気になったのは『なつかしく謎めいて』ル=グウィン、『ポイズン』ウッディング、『お江戸ガールズライフ』江藤千文、『日本文学ふいんき語り』麻野一哉他、『「新」訳 星の王子さま辛酸なめ子

表紙インタビューで深津絵里が紹介していた『手しおにかけた私の料理』辰巳芳子も面白そうです。
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『2004本格ミステリ・ベスト10』(原書房)★★★★☆

 しばらくかかっていなかったミステリ熱に最近またかかりだしたため、今ごろになって2004年版を購入、読んでみる。

 目玉は歌野晶午インタビューでしょう。ネタバレしないことよりも、読んでもらえるように気を遣っているという発言に深く納得。『ヴードゥー・チャイルド』はまさにそういう作品だと思います。本格じゃない方が楽だ、なんてものすごく正直なことをおっしゃってますが、ずっとずっとミステリを書き続けてほしいものです。

 人気ランキング『このミス』なんかと比べると、評論家による評価ランキングという側面がけっこう好きだったのに、だんだんただの人気ランキングになりつつある気配。そうは言ってもやはり読んでみるもので、座談会や紹介文を読むと、ノーマークだった『月の扉』『陰摩羅鬼の瑕』『赫い月照』あたりもけっこう面白そうである。京極堂はノーマークというより、イマイチだという当時の評判の影響があって読んでませんでした。

 柳広司インタビューも意外な拾いもの。作品内容どうこうよりも、好きな作品がエーコナボコフカルヴィーノ、タブッキ、チェスタトンボルヘスというあたりで期待してしまう。

 海外作品はアルテが一位。2003年半でも一位だった『第四の扉』にくらべると出来はいいらしい。でもたぶん読まない。本格度が高いだけで決して優れてはいないだろうと思う。そのくらい『第四の扉』は(以下略)。
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本格ミステリ・ベスト10 2004
探偵小説研究会編著
原書房 (2003.12)
ISBN : 4562037180
価格 : ¥893
通常2-3日以内に発送します。
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 翻訳小説サイト ロングマール翻訳書房


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