偉い本が出た。単なる復刻本じゃなくてこのカップリングというのもニクい。函の装幀は、これは安っぽいんじゃなくって、レトロなんだろうか。本体も今どきクロス装だと無条件に嬉しくなってしまう。
初めに月報(というか附録)を読む。須永朝彦・南條竹則・千野帽子のエッセイのほか、底本に未収録の訳詩(ヴィヨンの「上代の上臈方が歌」)が載っています。今様(?)か謡(?)だかの調べに乗せたリズムが新鮮でした。「語れ、今し、何處の地、いづ方にぞや、/かのフロラ、麗はしの、かの羅馬びと、/…………」。本文のあとがきを読むと、これは城昌幸の趣味らしい。矢野目単独訳も『戀人へおくる』に収録されているので、比べてみるのも一興です。
収録作のいくつかは『翻訳の日本語』で読んだことがありましたが、すべて読むのは初めて。矢野目訳『戀人へおくる』は、まるでオリジナルの民謡のようなくだけた訳詩が魅力。冒頭の「口説ぶし」のように、バレ歌っぽい作品にはこの訳がぴったり嵌ってます。
矢野目・城共訳『ヴィヨン詩抄』に続いては、城訳『夜のガスパァル』。散文詩や詩物語のような作品の、べらんめえ口調が魅力です。
矢野目訳『古希臘風俗鑑』はマルセル・シュオッブの翻訳。これは詩というよりアラビアン・ナイト風物語。
最後は日夏訳『巴里幻想集』。ルヰ・ベルトランの三篇は、『夜のガスパァル』と比べてみても断然すばらしい。城訳のべらんめえもいいが、日夏訳の間然するところのない硬質な文体には心からため息が出ます。
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