『ミステリマガジン』2019年9月号No.735【クイーン再入門】

 新訳が好調な一方で、「若い読者からは忘れられつつある」そうです。そのわりに「入門」ではなく「再入門」とあるように、若い人向けではなく年配者向けでした。思い出話にしろ入門書案内にしろ、寄稿者のほとんどがベテラン勢です。クイーンの稚気溢れる作風はコナンなどの探偵アニメで育った層には好まれると思うので、他ジャンルの執筆者に寄稿してもらえば新規ファンが獲得できそうな気もするのですが、そんなことはないのかな。

 わたし自身はエラリイ・クイーンは苦手です。これまでに読んでいるのは、『エジプト十字架』『ギリシア棺』『X』『Y』『Z』『靴に棲む老婆』『災厄の町』『九尾の猫』『恐怖の研究』「キ印ぞろいのお茶の会の冒険」「暗黒の館の冒険」「クリスマスと人形」「七月の雪つぶて」「黒い台帳」「神の灯」くらいでしょうか。面白かったのは『九尾の猫』。別枠として『刑事コロンボ』コンビが作ったドラマ「エラリー・クイーン」脚本集『ミステリの女王の冒険 視聴者への挑戦』がベストです。今まで知らなかったクイーンの魅力が伝わる!という内容ではありませんでした。

「クイーン新訳について」越前敏弥

「EQというベース」有栖川有栖

「画期的な発明」恩田陸

「令和版クイーン問答」山口雅也

「論理学研究と間主観性現象学」陸秋槎

「やわらかいのに歯ごたえ抜群」青崎有吾

「エラリイ・クイーンを知ってますか~昭和から平成、そして令和へ~」飯城勇三

「ハードボイルド経由のクイーン入門」宮脇孝雄

「フォーシーム」米澤穂信

 有栖川有栖が「手本としたのはクイーンの推理法に限定されている」というのは意外でした。クイーン信者だと思っていた山口雅也が礼讃だけではなく評価下げについてもしっかり指摘しているのも意外です。寄稿者のなかでは若手に属する青崎有吾は、シンプルな『フランス白粉の謎』、エンタメとして出色の『ドラゴンの歯』など、読みやすさを意識したお勧めでした。
 

「暁の三騎手の秘密」エラリイ・クイーン/飯城勇三(The Mystery of the 3 Dawn Riders,Ellery Queen,1950)★☆☆☆☆
 ――もしもウィルカーズ騎馬巡査が公園酒場脇の乗馬道で夜明けの仕事を果たしていなかったら、クーニイ殺しは決して解決されることはなかっただろう。紳士にふさわしからぬ時刻に酒場の近くにいた三人の紳士の襟首をひっ捕らえたのは彼だった。死にゆく男はテーブルに手を伸ばして一個の角砂糖を握っていた。

 『クイーン検索局』所収の「角砂糖」初出バージョン。もってまわった文体はクイーンの趣味なのでしょうが、事実関係や前後関係をわかりづらくすることで真犯人を隠す効果もあるのでしょう。ダイイング・メッセージの真意も合わせて意外性を狙っているのはわかりますが、ダイイング・メッセージというもの自体がばからしいものであるうえに、「隠語で金」「糖尿病」といったゆるい思いつきを「合理的な解釈」ということにされるのは、21世紀に読むのはつらい。
 

「名探偵エラリイ・クイーン 棺の手がかりの冒険」飯城勇三Ellery Queen Detective in The Adventure of the Coffin Clue,1940)★☆☆☆☆
 ――マギー・ゲイツという女性がクイーンの許を訪れた。婚約者が殺人容疑で逮捕されたという。殺害に用いられた拳銃は婚約者のものであり、被害者と部屋が隣同士だったという。

 アメコミ誌『Crackajack Funnies』より。「見えない恋人の冒険」の漫画化。登場人物が少ないので犯人は考えなくてもわかります。手がかりや決め手はどれも、クイーンが有能というより警察が無能なだけでした。
 

「パラダイスのダイヤモンド」エラリイ・クイーン/青田勝訳(Diamonds in Parasise,Ellery Queen,1954)★☆☆☆☆
 ――賭博場パラダイス・ガーデンで歌手リリー・ミンクスのダイヤのイヤリングを盗んだ男が逃げようとして転落し、死ぬ間際に「ダイヤモンズ……イン……パラダイス」と言い残した。だがパラダイス・ガーデンのどこにあるというのか……。

 これは初出版ではなく『クイーンのフルハウス』収録のものをそのまま掲載。『フルハウス』紙版が絶版だから、それもありなのかな。内容はまたもダイイング・メッセージ。しかも英語でなければ意味がない。なぜ再録にこれを選んだのか。
 

シャーロック・ホームズ・アカデミー 追加講座」日暮雅通
 シャーロッキアンについての話。

「悪魔の地所」スティーヴ・ホッケンスミス/日暮雅通
 

「ミステリ・ヴォイスUK(113)生者と死者と」松下祥子
 タイトルとおまけこそ特集に合わせたエラリイ・クイーンですが、内容は是枝裕和監督作品について。
 

「日没 あしあと探偵掌編」園田ゆり
 ――独居老人が発作を起こし死にかけていた。薬を取りに立ち上がる力もない。そこに探偵の寺崎が現れた。老人の元部下から依頼されて所在を探していたという。

 月刊アフタヌーンで連載されていた『あしあと探偵』の番外編。連載が終了した漫画の続編が唐突に読み切りで掲載された事情は不明です。もちろん探偵ものなのでミステリマガジンに掲載されるのに不思議はありませんが。けっこうエグいのに読後感は悪くありません。連載版を含めてもベストのエピソードではないかと。
 

「書評など」
澤村伊智『予言の島』は、著者「初の謎解きもの」。
 

「聖者の沈黙」チャールズ・マッキャリー/直井明

  


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