読んで字のごとくクリスマスもののホームズ・パスティーシュ特集。意外と出来がよくて驚いた。単行本のアンソロジー収録作などよりもよほど優れている。
「足掛け二年のホームズ・イベント」日暮雅通
元祖オタク=シャーロキアンのオタ紀行エッセイなので、シャーロキアン以外には限りなくどうでもいい。
「驚愕した巡査の事件」ピーター・トレメイン/甲斐萬里江訳(The Case of the Panicking Policeman,Peter Tremayne,2006)★★★☆☆
――「劇場の支配人がウェストマン巡査を見かけ、声をかけました。地下室からどすん、どすんという奇妙な音が聞こえてきたと言うのですな。そこで巡査は地下に行ったのですが、そのとき悪魔が現れた……と」
標準作。といってもかなり出来のいい方の標準。何より事件の雰囲気がオリジナルっぽい。ミステリとしては、そのホームズものの雰囲気を出そうとするあまりの無茶苦茶なものなのだが。本歌取り(?)の正典作品と比べても、レッド・ヘリングの出来に大差があるのは致し方ない。
「イレギュラーなクリスマス」エドワード・D・ホック/日暮雅通訳(An Irregular Christmas,Edward D. Hoch,2006)★★★☆☆
――シャーロキアン団体「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」団員のコレクターが殺された。そばにはタロット・カードの一枚が……。
これはシャーロキアンの集まりで起こった事件。ホームズとタロットでなくては成り立たない作品ではあるのだが、ホームズ自体に深い関わりのある内容ではない。
「焔の使者」ロン・ウェイエル/高山真由美訳(The Case of the Fiery Messengers,Ron Weighell,1990)★★★★☆
――「ジョン・ディー博士の蔵書目録を調べていると、興味深い発見をしました。貼り合わせたページのあいだから、ディー手書きの紙切れが出てきたんです。呪文のような文章と建築図のような図形が描かれていました」
ホームズ・パロディお決まりの、有名人もの。M・R・ジェイムズの怪奇とクロ○リーの、組み合わせの妙が光る。何やら理屈臭げな古代文書もジェイムズらしい。冒頭のホームズ推理の場面が、パスティーシュというよりパロディかと思うような滅茶苦茶さ(^_^;なのもご愛敬。
「幽霊執事3 ブラックメール」坂田靖子
幽霊執事とホームズをどうからめるのかと思ったら、やっぱりからむのは無理だったみたい。
「クリスマス毒殺事件」バリー・ロバーツ/吉嶺英美訳(The Case of the Christmas Poisonings,Barrie Roberts,2001)★★★★☆
――「ホームズさん、弟を救ってください。弟は一人の娘と恋に落ちたのですが、その一家はとんでもない悪党集団だったんです。それが、全員が死んでしまったのですよ。弟は捕まり、娘は姿を消してしまいました」
これも原作の雰囲気をうまく伝えている。真相もミステリとしてなかなか面白い。こういうのって、古典的ミステリならではの楽しさだね。
ホームズ特集はここまで。
「ミステリアス・ジャム・セッション第79回」霞流一
「ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第116回 犯人当てゲームという額縁」
探偵作家クラブの犯人当て朗読作品としての、高木彬光「妖婦の宿」について。これまで考察されてきた「額縁」と「真/偽」について、こういう回答を示してみせる。おもしれーなあ。仮にヨタであったとしても、『SFマガジン』連載の宇野常寛評論もこのくらい語る手際が上手であれば面白いのに。
「海外取材/ドイツでもミステリは共通語!」松坂健
ドイツのミステリ現状どうのこうのより、旅の醍醐味は何と言ってもこうした人のいい店主たちに出会えることでしょう。たぶん日本にだってそういう本屋はあるのだろうけれど、普段あんまり店員さんに話しかけたり自体しないしね。
「今月の書評」など
◆三橋暁氏紹介分より。論創ミステリより、『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』が出ましたね。パロディ集です。表題作以下「E・クイーンを呼んだ男」「チェスタトンを…」「シムノンを…」などなど。そして扶桑社文庫からはリチャード・マシスン第二弾『深夜の逃亡者』。前回の『魔術師の密室』が、面白くはあったけど傑作というのではなかったので、これもまあマシスンだから読もうか、くらいの気持で。
◆杉江松恋氏はマージェリー・アリンガムを評価している。『クロエへの挽歌』も「息つくひまもない」と絶賛。わたしはというと、アリンガムの文学「臭さ」とすっとこどっこいのトリックが苦手なのだ。でもセイヤーズは好きなのだけども。国書刊行会より刊行開始の〈ウッドハウス・スペシャル〉第一弾はウッドハウス『ブランディングズ城の夏の稲妻』。「メイン・ディッシュ級の作品」ということですが、ウッドハウス・ファンにはそれ以上の説明はいらないでしょう。
◆同じく説明不要のジャック・リッチー『ダイアルAを回せ』も〈河出ミステリー〉から刊行されました。
◆小玉節郎「ノンフィクションの向う側」◆
来月のリニューアルに伴い、小玉氏の連載は最終回だそうです。残念。宝島新書『美味しい食事の罠』。
◆風間賢二「文学とミステリのはざまで」◆
コーネリアス・メドウェイ『ミスタ・サンダーマグ』。「しゃべることのできるヒヒを主人公にした、ちょっと風変わりな中篇小説」「ブルガーゴフの『犬の心臓』、カフカの『変身』、コリアの『モンキー・ワイフ』のいずれかの変種と読めないこともない」「カフカの『アメリカ』を想起」とのこと。
「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第36回 江戸川乱歩「空気男」(後篇)」野崎六助
「新・ペイパーバックの旅 第21回=〈ブック・ビン〉で年代物ペイパーバックを一気買い」小鷹信光
「鮮血のメリークリスマス〜夕陽はかえる 外伝其の一」霞流一★★☆☆☆
――影ジェント・瀬見塚の暗殺術が冴えわたる! 背徳のSin本格登場。
この人の作品では笑ったことがない。言うほどシーン描写も上手くないし。書き割りのような文章の中に、ぽつんとギャグだけ入っているので、ノリというものがないのだ。
「翻訳者の横顔 最終回 わが家のマーリー」古草秀子
『ポルトガルの四月』第03回 朝暮三文
『藤村巴里日記』第08回 池井戸潤
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