『新版 馬車が買いたい!』鹿島茂(白水社)★★★★★

 19世紀の文化を紹介した本――と言っても間違いではないのですが、鹿島氏の他の著作同様に、目から鱗の小説論でもあります。19世紀の文化を明らかにしたうえで、馬車なり食事なりがその小説上で持っている意味を教えてくれるので、主人公たちがぐっと生き生きとしてきます。

 19世紀のフランス小説に「四十スーの食事を取った」だとか「クーペで出かける」だとか書かれていても、たいていの21世紀日本人には、単に「食事した」「馬車で出かけた」という意味でしかありません。ですが「300円の定食」と「3000円の定食」、「軽で出かけた」と「スポーツカーで出かけた」の違いのようなものが、当たり前ですが19世紀にも存在していたはず――そんなふうに、鹿島氏の手にかかると登場人物たちの性格や身分や経済状況までがわかってしまって、その小説が二倍も三倍も楽しくなります。

 『レ・ミゼラブル』のあの人は……『人間喜劇』のあの人は……金銭感覚のない人、見栄っ張りな人、馬車で急いでいる人、馬車でデートしたい人、馬車で一人前になりたい人……各時代各国版のこういう本があればいいのに。

  『馬車が買いたい! 新版』
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