『宝石』昭和28年12月号第8巻第14号

 いろいろ掲載されてはいるものの、まずは特集「贋作集」を読みました。
 

「ユラリウム」城昌幸(贋作エドガア・アラン・ポオ)★★★☆☆
 ――その空は薄墨の色に澱み錆び付いてゐた。千年の静けさを保つかに見えた。生き行くことを止どめ、又、死を忘れた相である。

 タイトルからもわかるように、まさかの詩の贋作(?)です。著者の城昌幸は詩人でショート・ショート作家なのだから意外ではないのかもしれませんが――デュパンものだと思っていたのでちょっとがっかりです。
 

「黄色い下宿人」山田風太郎(贋作コナン・ドイル

 これは短篇集やアンソロジーでもお馴染みの作品なので今回は読み返しませんでした。もちろんホームズ譚です。
 

「胡蝶の行方」大坪砂男(贋作師父ブラウン物語)★★★★☆
 ――珍しい蝶を追っていた蝶蒐集家が打下ろした網の先には、フランボウの頭があった。蝶蒐集家のマクロード博士に招かれてフランボウと師父ブラウンが家を訪れると、珍種の蝶の標本が消え去っていた……。

 これは珍しいチェスタトン贋作。しかも大坪砂男作。冒頭の風景描写から黒点→蝶→甘い蜜→蒐集家……と徐々に視点を変えていくやり方は見事にチェスタトン流をものにしています。ロジックや伏線もなかなか。「老女中とくると、てんで蝶々も落葉も区別がなし……」というフランボウの何気ない一言から真相にたどりつくところは、ぞくりとしました。しかも「目をそらす」という一語で、犯人による二つの行動(生きている蝶の出現と死んでいる蝶の消失)の両方が説明されてしまうところがたいへん優れていると思います。
 

「ルパン就縛」島田一男(贋作M・ルブラン)★★★☆☆
 ――尊敬する男性はアルセーヌ・ルパン。新聞社のアンケートに対し、そう答えたために、引退の危機に立たされてしまったプリマドンナ。彼女を助けるため、ルパンは舞台の上で逮捕されることを決意する……。

 ルパンものの贋作というと、どうしてもこういうふうに「変装」と「恋愛」で逃げてしまうところがあるように思います。女性の名誉を守るために自分の身をさらけ出す紳士らしさを持ちながら、しかも同時に世間に向かってアピールもしてしまう自己顕示欲の持ち主でもあるところはルパンの特長をうまく捕えていますが、ちっちゃなトリックの一つくらいはほしかったところです。
 

クレタ島の花嫁」高木彬光(贋作ヴアン・ダイン)★★★☆☆
 ――水死体で見つかった男のポケットから、クレタ島の古美術品が見つかった。男の身元は、先日死んだ考古学者の妻の従兄だと判明した。果たして二人の死はクレタの呪いなのか……。

 意外な犯人、ヴァンスの思わせぶりのなかにまぶされた伏線、映画の手がかりというヴァン・ダインらしいすっとこどっこいな傍証などなど、謎解きミステリとヴァン・ダイン風がうまくまとめられていたと思います。なんだかヴァン・ダインの作風って、著者とヴァンスの蘊蓄にうんざりして、どうでもいいやって投げやりになる分、解決編が鮮やかに見えるのかも。

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