『幽 vol.13』【女たちの百物語/二百一年目の上田秋成】

「路地裏、坂道、百物語」MOTOKO
 右側に路地裏、左側に群れの写真。ページをめくると、鯉の群れ、亀の群れ、と続く。この流れで見ると、ツツジ(?)すらも一個の花の「群れ」に感じられて、ちょっと不気味で恐ろしい。
 

「第一特集 女たちの百物語」伊藤三巳華・岩井志麻子・宇佐美まこと・勝山海百合・神狛しず・加門七海・宍戸レイ・立原透耶・長島槇子・三輪サチ
 実際に開催された百物語会からの抜粋と、加門七海による「百物語の作法」、中島次郎による鴎外「百物語」論「虚構の百物語」、東編集長による百物語史、朝宮運河による「女流怪談文学史&読書案内」。よくあるタイプの話が多いなかで、宍戸レイ「南瓜」だけは松谷みよ子の現代民話のようで一つだけ印象に残りました。
 

『沖縄怪談』「ニョラ穴」恒川光太郎
 ――新連載小説。あなたがニョラの支配する無人島、アナカ島にいるのであれば、決して奥の洞窟に近づいてはなりません……。

「ソウ」綾辻行人
 

『眩談』「歪み観音」京極夏彦
 ――「曲がってない?」あの電柱、と言って私は指を差す。やっぱり曲がってる。でもおかしい。電柱の一部分が属している空間だけが歪んでいるみたいだ。電柱自体が曲がっているのなら、観察する位置によって変わって見えるはずなのだ。

 「〜談」シリーズ新連載。京極夏彦特有のねちねちとした、(非常時なのに)冷静で詳細な観察・描写が続いたあげく、最後の最後にマジギレ。濁った世界から現実に顔を出したようなすっきりした気分に――ならないよね、やっぱり。。。ここまでこってり書かれるとあり得ないはずの世界が目に浮かぶよう。
 

「鬼談草紙(12)」小野不由美
 

「顔無し峠」山白朝子
 ――迷子癖の和泉蝋庵と一緒にいたら迷子になる。私たちは疲労困憊し、だまりこんで獣道をすすんだ。「おーい!」前方の山肌に男の姿が見える。茂みをかきわけて、男がちかづいてきたのだが、すこしはなれた場所でたちどまってしまう。目をおおきくひろげて、顔面が蒼白になっていた。「も、喪吉でねえか! 成仏せえ! 南無阿弥陀仏!」どうやら男は、私のことを、何者かとかんちがいしているようだった。

 逆さまの幽霊譚。「幽霊」になった語り手が自分の生き方を見つめ直す。「幻の女」の逆パターンが面白い。「みんな知ってる」。「喪吉」という名前からして「死んでいる」ことの記号のよう。最後、「ある場所」に差し掛かる瞬間に、起こりえないことが起こってしまいそうでどきりとします。
 

「口縄坂」有栖川有栖

「怪談実話コロシアム」雨宮淳司・黒木あるじ・松村進吉
 新人競作新連載。黒木あるじの四話目「団地の女」が短いだけに怪が際立ちます。松村氏は文章がひどすぎ。

『上方怪談街あるき』(1)「大坂城怪談」北川央・中山市朗
 「江戸怪談は忠義に生きた武士達の情念や無念の心が、あるいは武家社会に翻弄された女たちの怨念が生み出したもの」だと考える中山氏の希望により、第一回は大坂城の怪談。「婆々畳」が異色。襖を釘で打ちつけて入れないようにしてあった部屋には、中央に古畳が十枚ほど積み上げられていたが……そこで眠ると夜中に……。

「ひとり百物語」立原透耶

「続・怪を訊く日々」福澤徹三

「顳顬草紙」平山夢明

『日本の幽霊事件』「水道の祟り」小池壮彦

「山の霊異記」安曇潤平

「日々続々怪談」工藤美代子
 

「短歌百物語」佐藤弓生
 香川ヒサ「もう一人そこにはをりき永遠に記念写真に見えぬ写真屋。これに怪を感じてしまう佐藤氏の感性が光ります。触発された掌篇も、何でもないといえば何でもないんですが、不気味といえば不気味で。最後に「これは?」「これは?」ととんとん拍子に畳みかけるのが効いてます。

 高野公彦「照りかへるプールにむかひ魂《たま》きえし如く人体が落ちてゆくなり」。当たり前の光景にまったく別の風景を見いだせるこういう感覚はうらやましい。一度そう言われてしまうと、死んで落ちて行っているようにしか見えなくなってしまいます。

 上野久雄「ねむりゆく闇に思えば亡骸にまわりつづけていし扇風機」。これも後半は現実にどこかで起こっていそうだからこそ怖い。というか、これはいつ頃の作なのだろう。お年を召した晩年の作品だとすると、後半どころかまるまんまリアルな怖さ。
 

『幽的民譚』「みんなの女の子」ヒュー・マクディアミッド/南條竹則訳(A'body's Lassie,Hugh MacDiarmid)
 死者に化けて人をたぶらかすいたずら妖精(?)の話。スコットランドの作家。

「第二特集 二百一年目の上田秋成
「山霧記抄」上田秋成/鷹西鉄男訳
 ――先君の御忌日のお供えをしたところ、狐がしのびこみ、食いちらしていった。僧たちは怒り、狐の首と身体を押さえこみ、とうとうひきちぎってしまった。その後になって怪事が起こった。十二、三歳ばかりの小法師が、御堂の軒先のあちらこちらに火をつけ始めたのである。

 秋成は「吉備津の釜」もそうですが、意外とビジュアル的にも重きが置かれています。いや、それ狐が憑いたとかじゃないよ――と思ってしまう狐の登場には唖然。かっこいい。。。秋成が、というよりも、浮世絵や黄表紙・読本などイラストが盛んな文化だったということなのかもしれない。

「怪談作家秋成を語る」岩井志麻子×堤邦彦×東雅夫

「秋成の復活――ポストモダンとしての『雨月物語』」高田衛

「墓ふたつ――上田秋成の故地を訪ねて」「秋成怪談読書案内」東雅夫
 

「第三特集 平成・雨月・物語」雀野日名子・谷一生

「第4回『幽』怪談文学賞授賞式REPORT!!」

「怪談徒然日記(最終回)」加門七海

「漫画についての怪談(13)」唐沢俊一
 

「江戸怪談実話の迷い道(3)」高原英理
 『北越奇談』より、蝦蟇の怪、蛇の怪。
 

「怪談マガジン彩訪(3)」東雅夫

「怪談映画語り(3)『東海道四谷怪談』」山田誠二
 

「京都ダイバー」山田雄司(東アジア恠異学会)
 「将軍塚」の鳴動。将軍の墓から将軍塚へ、伝説が作られてゆく過程が追われています。

「スポットライトは焼酎火(13)山ン本眞紀『怪の壺 あやしい古典文学』
 古典怪談の現代語訳を発表している方です。
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