『一角獣の殺人』カーター・ディクスン/田中潤司訳(創元推理文庫)★★★★☆

 『The Unicorn Murders』Carter Dickson,1935年。

 本書は『プレーグ・コートの殺人』の続編に当たっています。というのは主要登場人物(H・M、語り手ケン)が同じ、というだけではなく、被害者の丸い傷口という点まで一緒。何でこんなことしたんだろう(^ ^;。思いついちゃった、のかな。

 その丸い傷口が「一角獣に殺されたとしか思えない」ものなのですが、一角獣についてはそれくらいの添え物みたいなもので、あまり事件とは関係がありません。怪盗が狙っているもののコードネームが「一角獣」だったり、「一角獣は好きなときに透明になれる」「一角獣を捕まえられるのは処女だけ」といった話もからんではきますが。

 肝心の「一角獣としか思えない」凶器にしても、珍妙で特殊すぎるものなので、普通であれば失敗作にしかならないはずなのですが、ところがどっこいかなりの佳作でした。(※使っても音がしないというのが重要な意味を持っているし、特殊すぎるがゆえに持っているだけで容疑者扱いされるという点にもかろうじて一役買ってはいるでしょうか。)

 やはり何と言っても怪盗対名探偵という趣向、しかもどちらも変装の名人なので誰に化けているのかわからないという二重の「犯人探し」の趣向から目が離せません。しかも化けているのは二人だけじゃなく、騙りだらけ、果ては語り手の「元」情報部員ケン・ブレイクまでが現職情報部員のふりをしているという始末です。

 殺人のトリックにしてもそうですが、〈見方を変えれば実はこうだった〉という事実が変装のほかにいくつもあって、それが手堅く的確に解き明かされるので、スリラー調ながら本格ミステリとしても満足な出来。たとえば「窓の外の足跡」についての(ガスケ、アラン刑事、H・Mの)三通りの解答などは、時間や目撃証言など基本だし地味ですが感心しました。

 パリで休暇を楽しむケン・ブレイクは、美女イヴリンとの再会により、“一角獣”をめぐる極秘任務に巻き込まれた。そして嵐の中たどり着いた『島の城』では、目撃者のいる前で怪死事件が発生。死体の額には鋭い角のような物で突かれた痕が残っていた。フランスの古城を舞台に、希代の怪盗、パリ警視庁の覆面探偵、ヘンリー・メリヴェール卿が三つどもえの知恵比べを展開する。(カバー裏あらすじより)
 ---------------

  『一角獣の殺人』
  オンライン書店bk1で詳細を見る。
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ