『暗殺のハムレット ファージングII』ジョー・ウォルトン/茂木健訳(創元推理文庫M)★★★★★

 『Ha'penny』Jo Walton,2007年。

 原題の「ヘイペニー」とは劇場で一番安い席のこと。

 シリーズ第二作の今回は、犯罪の図式はわりと早い段階で明らかになります。というか帯に堂々と書いてあります。しばらくのあいだは全貌をつかんではいないカーマイケルたち捜査陣も、実際にあきれてしまうほどあっさりと真相にたどり着きます。

 カーマイケルは前作で魂を売り渡してしまい、もう一人の視点人物も今回は犯罪者側に立っており、謎解きやサスペンスよりも、むしろ葛藤を中心に描かれていました。語り手はある大貴族の変わり者の六姉妹の一人という設定で、姉妹のなかにはコミュニストもいればヒムラーの妻もいて(さらに長女は前作ジェイムズ・サーキーの前妻)、そりゃまあ葛藤せざるを得ない立場ではあるのですが、当初は「女優は政治の話なんかしません」というスタンスだったのに計画に巻き込まれ、少しずつ真実を垣間見せられ揺れてゆきます。

 そして何より、前作では政治が間違った方向に振れてしまった瞬間に衝撃を受けましたが、今回は民衆が徐々に蝕まれてゆくおぞましさが描かれていました。所詮前作の衝撃なんて、一部の馬鹿がヒトラー一人しかいないのか二人いるかの違いでしかなく、こういう、よく日本的と評されるような自己保身と村社会的な出来事はどこででも起こり得るのだ、という意味では前作以上に衝撃的な書かれ方でした。

 前作に続いてゲスト主人公は女性なのですが、あるいはこれはユダヤ人や同性愛者のような被差別者(というか社会的弱者)の存在を意識しているのかもしれません。

 ハムレットを女性が演じるという設定にしたがって披露されるハムレット解釈も面白く、実際に見てみたいと思わせる舞台でした。

 印象に残った一言。「ナチをどれだけ憎んでいようと、かれらのファッション・センスだけは認めざるを得ない」

 ドイツと講和条約を締結して和平を得たイギリス。政府が強大な権限を得たことによって、国民生活は徐々に圧迫されつつあった。そんな折、ロンドン郊外の女優宅で爆発事件が発生する。この事件は、ひそかに進行する大計画の一端であった。次第に事件に巻き込まれていく女優ヴァイオラと刑事カーマイケル。ふたりの切ない行路の行方は――。壮大なる歴史改変小説、堂々の第二幕。(カバー裏あらすじより)
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