『good!アフタヌーン』2016年3月号(講談社)
「あめつちのうた」石井明日香
――小野岑守の姫・比古は憑かれたように絵を描く変わり者だった。そんな比古に漢籍を教える義母兄・小野篁は、幼いころから人には見えないものが見えた。だが母を救えなかったこと、魂を戻しても記憶は戻らないことが、篁の胸に刺さっていた。
2015年冬のコンテスト四季賞受賞作。一ページ目、ナレーションのレイアウトがとても風変わりなのに、違和感なくスムーズに順序通りに読めてしまいます。草子のめくりや煙の配置によって読者の目をコントロールしているんですね。すごい。。。篁登場のシーンも、まるで比古が描いた筆がそのまま実体になったかのような……。雪の白との対比のために真っ黒な篁ですが、その少しあとのコマを見ると、実際には肩や烏帽子に雪が積もっていることがわかります。こういう、すみずみまでじっくり眺めたくなる漫画はいいですね。小野篁が詠んだ和歌「泣く涙雨と降らなむ渡り川水まさりなば帰りくるがに」から想像をふくらませたような作品になっています。
「HEAVY-METAL EVIL」オオヒラ航多
――傭兵を雇い、赤ん坊を餌にして「少女《ビッチ》」を狩るハンターたち。寄生しているムシを売れば金になるのだ。止めようとする危険区域対策官に、「ブチ殺すぞ」とだけ告げ、傭兵はビッチを瞬殺する。
四季賞出身者による読み切り。まるで長篇の一部を切り取ったかのように、詳しい背景は語られません。それを「知りたい」と思わせるほのめかしと、これはこれで完結しているアクションが、いいバランスです。
「空中くらげ」鈴木真澄
――男をとっかえひっかえする母親の許を去り、ホームレスと暮らすようになった7歳のミナト。母親との暮らしでは味わえなかった輝きがそこにはあった……。
2015年1月号に「花の心臓」が掲載された、四季賞出身の著者による読み切り。いろいろちょっと美化していることに違和感があります。