『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』(L'Affaire Farewell,2009,仏)★★★★★

 クリスチャン・カリオン監督・脚本。エミール・クストリッツァ、ギヨーム・カネほか出演。

 諜報活動に携わっている上司・ジャックから頼まれ、ソ連側のスパイであるセルゲイ・グリゴリエフ大佐と接触することになったモスクワ在住フランス人技師ピエール・フロマン。初めこそ素人を寄こされたことに憤慨した大佐だったが、なぜかピエールを気に入り、その後の受け渡し役にもピエールを指名する。袋小路に行き当たっているソ連の行く末を危惧する大佐は、息子の未来のため、ソ連に新しい風を入れようと考え、ソ連スパイがアメリカから盗んだ機密情報をフランスに流そうとしていたのだった。ピエールは、危ないことはしないと妻に言いながら、その後もずるずると大佐との関係を続けていた。

 ソ連崩壊前夜の現実のスパイ事件をもとにした映画です。政治情勢に加えて、ダブル不倫に親子間の軋轢、妻に対する秘密といった、家庭問題まで盛り込まれた重苦しい内容ながら、レーガンが自分の俳優ネタを披露してくすりとする場面もありました。そのレーガンはじめ、ミッテランゴルバチョフのそっくりさんが登場したり、ピエールが実際のテニスの試合を見ていたり、クイーンのライブ映像と息子のなりきりパフォーマンスを重ねたりと、実際にあった事件であることを活かした効果が目を惹きます。

 一度は壊れかけた夫婦の絆が、なかば強引にダンスに誘うことでふたたび近づき始める、あの場面は美しかったです。

 拷問された大佐が、「狼の死」を口ずさむ覚悟には胸を打ちました。拷問者たちにはわからない、映画を見ている者だけにわかる。この場合の「狼」とはてっきり妻子のことかと思っていたのですが、KGB幹部の後の口振りでは「狼」とはピエールたちのことなのでしょうか。

 それにつけても残酷な結末でした。騙し騙されがスパイの世界とはいえ……真実を知らずに死んでいっただけまだしも無念は残らなかったでしょうが。。。

  


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