「だいあろおぐあきらめに似て照る月は言葉の海を笑つてゐるのさ」紀野恵

昔のフォークソングには、英単語をひらがなで表記したものがありました。中島みゆき「りばいばる」、井上陽水「はーばーらいと」……。この歌が歌っているのも、そんな時代の景色でしょうか。果てしない対話を、月があきらめ顔で笑っております。あるいは、あ…

「鬼やんまの翅の下なる少年期 水平に網かまえていたり」吉川宏志

鬼やんまは地面すれすれを飛びます。だからこそ「水平に網かまえて」いるわけです。北杜夫氏のエッセイによると、氏は「地面をするように飛ぶ」鬼やんまをステッキで叩き落としていたそうです。http://www.pippo.jp/tombo/kita/ 「鬼やんまの翅の下」には少…

「一度にわれを咲かせるようにくちづけるベンチに厚き本を落として」梅内美華子

キャンパス・ライフが目に浮かぶようです。 ところがどっこい。京極夏彦やハリポタが売れている昨今では、学生でなくともぶ厚い本を読むのです。辞書や文学全集や哲学書とは限らない。ベンチがある場所も、学内かもしれず、公園かもしれず、駅の構内かも喫茶…

「針と針すれちがふとき幽かなるためらひありて時計のたましひ」水原紫苑

この短歌は尻切れとんぼです。〈針と針がすれ違うときためらいがあって、時計の魂……〉。いったい「時計のたましひ」がどうなったというのでしょう? 時計の魂が抜けてしまった。時計の魂の存在を詠み人が感じた。…… そもそも時計の針というのは、長針も短針…

「光線をおんがくのごと聴き分くるけものか良夜眼《まなこ》とぢゐる」水原紫苑

「良夜」の「光線」といえば、普通であれば〈月の光〉にほかならないし、月光のことだと捉えるのが正しい解釈だと思います。けれどわたしには、オーロラという「光線」が〈五線譜〉に見えて仕方がありません。オーロラという〈五線譜〉に書かれた曲を「聴き…


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