『Very Gook, Jeeves!』P. G. Wodehouse,1930年。
「ジーヴスと迫りくる運命」(Jeeves and the Impending Doom)★★★★☆
――恐るべきアガサ伯母さんの家に招待されたバーティー。そこには妻の留守中に有り金を競馬でスッてしまったビンゴが家庭教師をしていた。バカ息子トーマスが悪さをすれば監督不行届でビンゴは馘首に。バーティーは親友の馘首を阻止すべくジーヴスの知恵を頼るのであった。
白鳥とのドタバタや恐るべき伯母さんや間抜けな友人たちは相変わらずなのだけれど、それに気を取られていると足元をすくわれます。物事の裏を読みとる鋭いジーヴスの面目躍如。でもやっぱり旅行に行きたかっただけなのかもしれないなあ。「バーティ君と白鳥の湖」の邦題で『ジーヴズの事件簿』[bk1・amazon]にも収録。
「シッピーの劣等コンプレックス」(The Inferiority Complex of Old Sippy)★★★★★
――編集長をやっているシッピーに会いに行った。どうやらシッピーは詩人の女の子に恋をしてしまったらしい。ところがそれを本人に言えないのだ。おまけに気楽な雑誌のカラーには合わない原稿を押し売りに来た、小学校時代の校長をシッピーのやつは断れない。
ジーヴス、力わざ。「たいへん遺憾ながら」って(^^;。いやジーヴスが極悪なのはもうわかってはいるんですが。ジーヴスがバーティーのために努力するのは、居心地のいいご主人様を失いたくないっていう下心から、というのは「バーティー考えを改める」の中でジーヴス自身が告白してるし。本篇にいたってはバーティーのためですらありません。いぢわるジーヴス。
「ジーヴスとクリスマス気分」(Jeeves and the Yule-tide Spirit)★★★★☆
――モンテ・カルロ旅行を中止して、レディ・ウィッカムの招待を受けたバーティー。ひと目ぼれしたウィッカム嬢の協力で、タッピーにかつての仕返しをしようとたくらむバーティーだったが。なんとウィッカム邸には天敵サー・ロデリックも滞在……。
『ジーヴズの事件簿』にも「ジーヴズと降誕祭気分」の邦題で収録。ジーヴスが“いぢわる”だとするなら、ウースター作品の多くの女性は“性悪”。困ったものです。サー・ロデリックとくれば何かというと狂人にされてしまうバーティー。これはもうお約束。さらには今回も、裏を読みとるジーヴスの洞察力が冴えています。
「ジーヴスと歌また歌」(Jeeves and the Song of Songs)★★★★☆
――タッピーが婚約をした。ダリア叔母さんの娘アンジェラを振ってまで手に入れた相手というのが、オペラ歌手で、プラクティカル・ジョークが大嫌いときた。タッピーからは余計なことはするなと言われ、ダリア叔母さんからは二人の仲を裂いてくれと言われ途方に暮れるバーティーであった。
よくできた作品というのはフェアに書かれているし、作者の作品をいくつか読めばだんだんとパターンもわかってきます。だから婚約者がジョーク嫌いと書かれてある時点でピーンときて、じゃあどんなジョークで終わらせてくれるんだろう、ということになります。「サニーボーイ」づくしでした(´∀`)。
「犬のマッキントッシュの事件」(Episode of the Dog McIntosh)★★★★☆
――アガサ伯母さんの旅行中、飼い犬のマッキントッシュを預かることになったバーティー。恐るべきウィッカム嬢が母親の脚本を劇場経営者に売り込むために、なぜかバーティーのフラットを利用することに。経営者のガキがマッキントッシュを気に入り持ち帰ってしまったため、バーティーは大ピンチに。
性悪女と糞ガキを描くことにかけてはウッドハウスの右に出るものはいない!と断言しちゃいましょう。ロバータ・ウィッカム嬢がまたまた登場。バーティーときたら、狂人扱いされるのも慣れたもの。それで万事解決してしまうところもすごい(^^;。
「ちょっぴりの芸術」(The Spot of Art)★★★★☆
――画家のグラディスに恋をしたため、バーティーはダリア叔母さんの旅行をキャンセルする。ロンドンを離れて恋のライバルであるピムに塩を送るわけにはいかないのだ。ところがグラディスの運転する車がピムをうっかり轢いたため、バーティーのフラットでピムは絶対安静に。二人はみるみる急接近する。ピムのやつが自動車事故をバーティーのせいにしたために姉夫婦が乗り込んできてひと騒動が巻き起こる。
短篇なのにその短さのなかで次から次へと問題が持ち上がるので、本書のなかでも、読んでいるあいだじゅう楽しくてしかたない一篇でした。これは解決になっているのかなあ?という気もしますが。
「ジーヴスとクレメンティーナ嬢」(Jeeves and the Kid Clementina)★★★★★
――ウィッカム嬢がまたやって来た! 従姉妹のクレメンティーナもいっしょだった。何事もなく無事すごせたと思いきや、クレメンティーナは寄宿舎を無断で抜け出してきたのでこっそり元に戻しといて、あとはよろしく、なのだそうだ。
恐るべきウィッカム嬢、三たび登場。いつも(半ばジーヴスのせいで)狂人扱いされたり犯人扱いされたりとさんざんのバーティーですが、本篇ではジーヴスのおかげで見事ヒーローに終わります。数少ないバーティー活躍篇。
「愛はこれを浄化す」(The Love That Purifies)★★★★★
――ダリア叔母さん邸にやってきたバーティー。ところが恐ろしいことにアガサ伯母さんの息子である悪ガキトーマスが滞在していた。滞在客のあいだで、ダリア叔母さんの息子ボンゾとトーマスの、どちらのお行儀がよいかを賭けることになり、ダリア叔母さんはあろうことか名料理人アナトールを賭け代にしてしまった。あくどい手を使ってアナトールを手に入れようとする賭け相手に負けぬため、ジーヴスの知恵が必要だった。
バーティーの手に負えなくなり休暇中のジーヴスを呼ばざるを得なくなる、だなんてまるで、機が熟したころに名探偵颯爽と登場、であります。が、ジーヴスの頭脳もあわや大ピンチ。悪ガキたちのきどった豹変ぶりがかわいい作品。性悪女と悪ガキを多く登場させるウッドハウスだが、書こうと思えばかわいい子どもも書けるのだ。
「ビンゴ夫人の学友」(Jeeves and the Old School Chum)★★★★★
――旧友が遊びに来て以来、ビンゴ夫人はすっかり影響されてしまった。健康食ばかり食べさせられて、ビンゴの胃袋は限界だった。旧友を追い出す糸口をつかむべく、バーティーとジーヴスはビンゴ・ビンゴ夫人・旧友とともにピクニックに出かけた。
ジーヴスのいわゆる「個々人の心理」が見事です。これまでの多くの作品では、コメディの約束事としてうまくいっている感がなきにしもあらずだったのですが、本篇の人間性の利用法は実に見事。逆にリアルな分だけつまらないともいえますが。女同士ってやつぁ……。
「ジョージ伯父さんの小春日和」(The Indian Summer of an Uncle)★★★★★
――ジョージ伯父さんが結婚をすると言いだした。相手はクラブのウェイトレス。アガサ伯母さんがなんと言うかは目に見えていた。かくして例によって例のごとくバーティーが手切れ金を渡しに行く羽目に。
ささやかなロマンス。バーティーやアガサ伯母さんのあわただしさが笑いを誘い、泰然自若としたジョージ伯父さんとウィルバーフォース夫人が安らぎを与えてくれます。しかしバーティーはアガサ伯母さんから逃げてばっかりですね(^^;。こんなんでは二度とロンドンには戻って来られないんじゃないかと心配しますが。アガサ伯母さんも意外と忘れっぽいのかも。
「タッピーの試練」(The Ordeal of Young Tuppy)★★★★☆
――タッピーから電報が来た。「フットボール・ブーツとアイリッシュ・ウォーター・スパニエルを頼む」。またもやアンジェラから浮気して犬好きの女に恋をしたタッピーが、フットボールでいいところを見せようという魂胆らしい。
史上まれに見るフットボールの(?)泥仕合が見どころです。スラップスティックここにあり。「ジーヴスと歌また歌」だって「タッピーの試練」と言えるわけですが、「歌また歌」の方ができはいいかな。バカなことをするタッピーを、輪をかけてバカなことをして止めようとするバーティーがお茶目だから。本篇のバーティーはわりとまともなのです。
070301追記。イタリアではサッカーの起源と信じられている「カルチョ・ストーリコ・フィオレンティーノ」というお祭りをテレビでやっていた。ボールそっちのけで取っ組み合ったり殴り合ったりと、「タッピーの試練」そのまんまな光景に思わず笑ってしまった(^^)。
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