『メトロポリス』(Metropolis,1927年)★★★★☆

 長らく品切れだった名作が、フリッツ・ラング・コレクションの一枚としてほぼ完全版でリリース。

 肉付け前のマリアがヴィジュアル的に有名で、そこがやっぱり一つの見どころでもあるんだけど、意外だったのは父親の社長役の俳優。めちゃくちゃ存在感がある! ちょっとボガードっぽい雰囲気の人なのだが、ほかの俳優陣が無声映画特有のオーバーアクションなのに対し、この人だけはほとんど動かずそれでいて尋常じゃない存在感で画面がぐっと引き締まる。

 諷刺としての戯画化された工場シーンはサイレント映画ならでは。こういうのは今では『トイズ』とか『シザーハンズ』のようなファンタジーでしか出来なくなってしまった。冒頭でこうした戯画を立て続けに見せることで、あっという間に視聴者を引き込むことに成功している。

 冒頭に説得力があるからこそ、社長室がただの大邸宅に毛の生えたようなセットであっても、何の疑問も感じずに見入ってしまうのだな。

 労働者集結シーンの尋常じゃなくゴミゴミした感じがいい。よくここまで詰め込んだなあ。しかし民衆の愚かさを描いた作品なのであった。偽マリアに煽動されて、工場長に煽動されて……学べよ、お前ら。いくら頭とって言ったってさあ。

 売りの一つがオリジナル音楽の復活。だけどBGMが一定音量で鳴りっぱなしの印象があって、もっとメリハリがあった方がよかったと思うのだけど。

 メトロポリスの夜景の、“懐かしい未来”がきれいだ。もっともっと未来都市の描写があってほしかったなあ。

  『メトロポリス』クリティカル・エディション
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