『完全殺人事件』クリストファ・ブッシュ/中村能三訳(創元推理文庫)★★☆☆☆

『完全殺人事件』クリストファ・ブッシュ/中村能三訳(創元推理文庫

 『The Perfect Murder Case』Christopher Bush,1929年。

 喜国雅彦『本格力』で「トリックのおかげで、読後感の深みが増したわけで」「その深み、島田荘司氏の作品を読んだときに感じるものに近いかな」と書かれていたため、積ん読だった本書をようやく読みました。

 冒頭で描かれる複数の謎めいた場面は、どれもその時点では事件と関係があるとは思えず、プロローグにこうしたカットを持って来るのは古い作品とは思えない新しさだと感じました。

 しかもそれに大きな魅力があるのでした。離れて暮らす夫から届いた、明らかに別の女に当てたと思しき手紙。記号的特徴のない俳優の代わりを探す広告に応募しようとする者は、果たしてどのように自分を売り込むのか。

 けれど面白いのはここだけでした。事件が起こって容疑者が四人の甥に絞られてからは、ひたすらアリバイ&捜査が続くため、かなり退屈でした。

 ただ、そのアリバイトリックと冒頭の場面が結びつく構成が上手いため、あまりにもベタなアリバイトリック【※三者の変装によるもの】も許せてしまうところはあります。

 で、喜国氏が書いている島田荘司云々というのは、要するにこのトリックに利用された人間の不幸な人生を指しているのでしょう。トリックに絡めて島田荘司の名前が挙げられていたので、てっきり島田荘司流物理的大トリックなのかと勘違いしていました。

 その朝、マリウスと署名された慇懃無礼きわまる投書がロンドンの主な新聞社と警視庁に届いた。興味本位に受け止められ、あるいは持て余された文書は、結果的に五紙が掲載、英国全土に話題を撒いた。第二第三の手紙で日時と場所を指定し、正面きって「完全殺人」を予告するマリウス。やがて文字通りの事件が……。傲岸不遜な犯人の、金城鉄壁・森厳壁塁の勝算を突き崩す方途は。

  


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