『Le Rouge et le Noir』Stendhal,1830年。
いくつかの層があるからいろんな楽しみ方ができるのだけれど、前半部分は今となってはユーモア小説だなあ。
ジュリヤン・ソレル。自尊心が高くて施しを侮辱と受け取るくせに、欲しい本があったら金持にたかるカワイイ奴である。俗物を毛嫌いしつつ出世を夢見るという何とも困ったちゃんぶりが、でもむしろ今の世に受け入れられそうな気もします。
革命→ナポレオン→王政復古→革命という当時の時代背景を照らしてみても、世間知らずの若気のいたりに満ち満ちていて微笑ましい。恋愛は平等というその「平等」という言葉にすら過剰に反応してしまう微笑ましさ。
プライドが高く金持を軽蔑し野心に満ちながら、やってることは不倫だけという俺様ぶりも、無根拠な自信だけは人一倍な現代っ子みたいで愉快なのです。
だけどむしろ面白いのは、何だか落ち着いてきちゃった終盤の方です。もともと出世の手段として神学校に入ったジュリヤン君だったのですが、都会の神学校は田舎者など及びもつかないような政治の巣。初めの一歩でつまずいてます(^^;。ギンギンにとんがってたジュリヤン君が、それなりの処世術を覚えつつもやっぱり浮いてていいキャラでした。知識も才気もあるんだけどどっか抜けてるあたりに親しみを感じてしまうのでしょうか。
前半では空回り気味だった野心の熱さも、後半ではそれなりに実体も伴ってきたためか、かけひきをめぐるジュリヤンの心の内も面白く読めました。
ただ、恋愛パートになると途端にありきたりになってしまってつまらない。
ナポレオン失脚後のフランス。貧しい家に育った青年ジュリヤン・ソレルは、立身のため僧職に身を投じる。やがて貴族であるレナール家の家庭教師となり、その美貌からレナール夫人に慕われるようになる。ジュリヤンは金持ちへの反発と野心から、夫人を誘惑するのだが……。(裏表紙あらすじより)
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