『赤い館の騎士』アレクサンドル・デュマ/鈴木豊訳(角川文庫)★★★★☆

 『Le Chevalier de Maison-Rouge』Alexandre Dumas,1845〜46年。

 タンプル塔に幽閉されているマリ=アントワネット救出作戦と、ひょんなことから事件にかかわることになったモオリス・ランデイの恋を描いた作品です。

 時系列的には『ある医師の回想』四部作の後ということになります。ところで「メゾン・ルージュ」といえば、その四部作に出てくるタヴェルネ家の領地の名のはずなのですが、単なる同名でまったく関係はないようです。解説によれば、もともとは「ルージュヴィルの騎士」というタイトルだったのですが、関係者にルージュヴィルという人間が実在したため子孫からクレームがつき「メゾン・ルージュ」に変更したとのことです。

 どちらかというとジャコバン党員モオリスの恋の苦悩に筆が割かれていて、王党派や王妃たちの印象はあまり強くないのですが、歴史上の人物のなかでは靴屋のシモンが陰険な小悪党として生き生きと描かれていて、この人の単細胞な悪役ぶりに作品全体がひきしまっていました。愚かといえばチゾン夫人も印象的です。この人はほんとうに頭の悪いおばさんに描かれていて、一手先のことも読めずに自分の身のまわりのことしか頭にない、絵に描いたような田舎者キャラで、それだけでも印象深いのですが……。

 王妃救出グループの一人が、後半には悪役に転じるのも記憶に残りました。しかも半端じゃない陰険ぶり。こうして見ると、悪役の際立っている作品でした。それも、かっこいい悪役ではなくって、どす黒い人たちばっかり。

 そうはいってももちろん主役たちにも活躍の場はふんだんにあり、恋だけじゃなく友情とか決闘とか名誉とか、まことにデュマらしい作品でした。

 かつてのルイ十六世は処刑され、今もタンプル塔にはマリ=アントワネット一家が幽閉されていた。そんな折り、メーゾン・ルージュの騎士がまたもや王妃救出を企てたらしい。緊張が高まるなか、夜間外出禁止令のさなかに出歩いていた女が不審尋問を受けていた。詰問されている彼女を救ったのは、通りかかった共和派のモオリスとローランだった。彼女を家まで送ったモオリスは、一目で恋に落ちていた。女のことが忘れられずに家を探し回るモオリスだったが、それを怪しんだなめし皮職人のディメールとモランに拉致される。彼らこそ王党派の一味であり、モオリスを共和派のスパイだと勘違いしたのだ。リンチに合いかけたモオリスを救ったのは、ディメールの妻ジュヌヴィエーヴであり、ジュヌヴィエーヴこそがあの夜の女性であった……。
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 赤い館の騎士 『赤い館の騎士』(角川文庫版)
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