『哈爾濱詩集/大陸の琴』室生犀星(講談社文芸文庫)★★★★☆

 犀星の「大陸もの」を一冊にまとめたものだそうです。

 『大陸の琴』と「駱駝行・あやめ文章」は昭和12年、13年、刊行年こそ晩年に近い『哈爾濱詩集』もそれ以前に書かれていた模様です。

 というわけで、期待していた「晩年の」詩についてはちょっとがっかり。

 『大陸の琴』はまことに犀星らしい、流麗なんだけどほとんど意味の取れない日本語で綴られていて、むかし犀星を好んで読んでいた自分としてはちょっと懐かしい。

 藍子は生れてはじめて聞くこの淫売という言葉が石上譲によって語られたものでなく、いまは頭の中に蛆のような綴りを見せて無数の文字をごちゃごちゃに並べて行った。藍子は髪の根や細かい毳からそれらの蛆のむらがりが盛り上がり、ぽとりぽとりと雫のように辷り落ちることを感じた。

 淫売と罵られた藍子の感情を表した文章ですが、下手な譬喩を通り越してもう何だかわからない迫力があります。

 哈爾濱育ちの女・藍子を中心に、それを取り巻く男女たちの生きっぷりを描いた作品。むしゃくしゃして女の化粧をこすり落とす男がインパクトありました。

 「駱駝行」「あやめ文章」は旅行記・回想記・エッセイ。旅行記というのはなぜかたいてい面白いものが多いものです。銀座の火事のことを思い出してやたらと神経質になったり、馬車夫を見て訳知り顔に一家言持ったり、「私のことを随筆になら書いてもかまわないが、小説はいけませんぞ」という人に出会ったり、旅は楽しさに満ちています。

 「きみは我が忘れもはてぬはるびんなりしか。/はるびんよ……。」昭和十二年四月、旅行嫌いの犀星が、生涯でただ一度の海外(満州)旅行に出かけた。「古き都」哈爾濱は、犀星の詩心を刺激し、後年『哈爾濱詩集』となる抒情詩の数々を産ませ、また、満州で棄て子捜しをする男を中心に、船上で出逢った人々の荒唐無稽な人生を描いた小説『大陸の琴』を書かせた。本書は、随筆「駱駝行」他三篇を併録した〈大陸もの〉作品集。(カバー裏あらすじより)
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