『第六ポンプ』パオロ・バチガルピ/中原尚哉・金子浩訳(早川書房 新ハヤカワSFシリーズ5002)

 『Pump Six and Other Stories』Paolo Bacigalupi,2008年。

 『ねじまき少女』のパオロ・バチガルピ第一短篇集の全訳。

 『S-Fマガジン』で既読の作品をのぞく五篇を読む。
 

「ポケットのなかの法《ダルマ》」(Pocketful of Dharma,1999)★★★★☆
 ――浮浪少年ワン・ジュンが運ぶことになった荷物の中身は、データ化された○○の意識だった……。

 という、アイデアにびっくりの一篇。こんなこと閃くのもすごいけれど実作するのもすごい。
 

「パショ」(The Pasho,2004)★★★★☆
 ――ラフェルはジャイに戻ってきた。ケリでパショとなって。知識を身につけ全身に刺青を施したラフェルを見て、英雄だった祖父は罵り、ジャイの人々はパショに対する敬意を見せた。

 いつの時代どこの地域にもある、保守と進歩のせめぎあい。そして正義や正当の名のもとに、いつもどこでも血が流され……。
 

「タマリスク・ハンター」(The Tamarisk Hunter,2006)★★★★☆
 ――タマリスクは成長すると年二十八万リットルの水を吸い上げる。ロロは報奨配水をめあてにタマリスクの伐採をやっていた。目の前に流れる川は利用できない。カリフォルニアに流されるのを黙って見ているしかない。

 百姓は年貢の米を食べられない的な、環境と都市の矛盾。これまたどこの世界にも、搾取する側の人間というのはいるものです。
 

「ポップ隊」(Pop Squad,2006)★★★☆☆
 ――若返り術が浸透し、妊娠・出産が違法となった世界。私は子どもたちを集めて銃を抜いた。硝煙のおかげでしばらく悪臭を忘れられた。ポップ隊司令部でパトカーを乗り捨てた。

 高齢化社会ですら問題になっているのだから、不老化社会になどなったらとんでもないことになる、のはわかる。
 

「やわらかく」(Softer,2007)★★★☆☆
 ――きっかけは皿を洗っていないことを指摘されたことだった。その直後にジョナサンは枕をピアの顔にかぶせた。死後の排泄物で汚れた体を洗っていたら、死んだ妻といっしょに浴槽にはいっているのが適切な行為に思いはじめた。

 難しい英単語テーマのアンソロジーに書き下ろされた作品とのことで、本書のなかで唯一毛色の変わった内容になっています。猟奇というよりはファンタジーっぽい。

 収録作はほかに「フルーテッド・ガールズ」「砂と灰の人々」「カロリーマン」「イエローカードマン」「第六ポンプ」

 


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