怪奇・幻想・ファンタジーのなかから猫が題材のものを選んだアンソロジー。似たような作品が集まるのは避けられないし、関連作品として類話や元ネタを並べてある場合もありますが、基本的に「化ける」以外にすることがないので平板です。
「猫」別役実(1982)
架空の博物誌の系譜に連なる『××づくし』シリーズの一篇。猫は化けるものという前提で書かれています。
「パート1 猫町をさがして」
「古い魔術」ブラックウッド/西條八十訳(Ancient Sorceries,Algernon Blackwood,1908)
朔太郎とブラックウッドはさすがに定番すぎるのでパス。その二篇の類似を指摘したのが乱歩のエッセイ。日影作品は「猫町」競作集に書き下ろされたものだそうですが、結局「猫町」はマクラで、飼い主よりも猫が主人だった的なオチでした。「猫町」に猫が選ばれたのには何か根拠があるはずだという魅力的な書き出しなのに、それを猫に訊くのは禁物だと言って終わらせてしまうのが残念。つげ義春「猫町紀行」は著者イラスト入りのエッセイ。「猫町」の感覚に憧れるも方向音痴ではないがゆえにかなわなかった著者が、犬目宿を目指すうち「猫町」のような感覚に陥るという話。
「パート2 虚実のあわいにニャーオ」
「ウォーソン夫人の黒猫」萩原朔太郎(1929)
「支柱上の猫」オドネル/岩崎春雄訳(The Cat on the Post,Elliott O'Donnell,1913)
「「ああしんど」」池田蕉園(1911)
「駒の話」泉鏡花(1924)
「猫騒動」岡本綺堂(1918)
「化け猫」柴田宵曲(1963)
「遊女猫分食《ねこわけ》」未達/須永朝彦訳(1683)
朔太郎はこちらも既読なのでパス。オドネルは実話怪談蒐集家で、猫の幽霊が出たというだけの話です。「ああしんど」は『百物語怪談会 文豪怪談傑作選・特別篇』にも収録された『怪談百物語』より。柴田宵曲「化け猫」は『妖異博物館』より。「遊女猫分食」は須永朝彦編訳『江戸奇談怪談集』より『新御伽婢子』の一篇。
「パート3 怪猫、海をわたる」
「鍋島猫騒動」作者不詳/東雅夫編(1889)
「佐賀の夜桜怪猫伝とその渡英」上原虎重(1954)
「ナベシマの吸血猫」ミットフォード/円城塔訳(The Vampire Cat of Nabéshima,Algernon Bertram Freeman-Mitford,1871)
「忠猫の話」ミットフォード/円城塔訳(The Story of the Faithful Cat,Algernon Bertram Freeman-Mitford,1871)
「白い猫」レ・ファニュ/仁賀克雄訳(The White Cat of Drumgunniol,Joseph Sheridan Le Fanu,1870)
「笑い猫」花田清輝(1954)
鍋島化け猫騒動の話をちゃんと読んだのは初めてでした。明治時代の和綴じ本より。その鍋島化け猫騒動についてのエッセイと、その本に引用されていた「The Vampire Cat of Nabéshima」を円城塔の訳し下ろしで、という心憎い趣向です。同じ著者の「忠猫の話」も併録。こちらは娘に懸想していると思われた飼い猫が、実は飼い主の命を狙う大鼠を、ブチという名高い猫と協力して倒します。原典は何でしょうか。
「猫の親方 あるいは長靴を履いた猫」ペロー/澁澤龍彥訳(Le Maître chat ou le Chat botté,Charles Perrault,1697)
誰もが知る古典がボーナストラック的に収録されています。
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