「鮮やかな賭け」神林長平
四十周年記念、書き下ろし読み切り。
「選考文――評者・神林長平の見出した才能」伴名練
『137機動旅団 新・航空宇宙軍史』谷甲州
こちらも四十周年記念の長篇一挙掲載。
『SFのある文学誌(66)佐藤春夫――幻想するノンシャランな視線」長山靖生
長山靖生が編集している彩流社のシリーズは、装画もモダンでお洒落なのですが、判型が大きくて読みづらいのと価格が高めなのが難点です。
「書評など」
◆アニメ『彼方のアストラ』、宮部みゆき『さよならの儀式』、澤村伊智『ファミリーランド』、劉慈欣『三体』、ハーラン・エリスン編『危険なヴィジョン〔完全版〕』など。
「ジーン・ウルフ追悼特集」
「ユニコーンが愛した女」ジーン・ウルフ/柳下毅一郎訳(The Woman the Unicorn Loved,Gene Wolfe,1981)★★★☆☆
――ユニコーンが逃げ出した。若い娘がパンを持ってユニコーンに近づいた。「殺される」そう思ったが、ユニコーンはパンをかじって娘の首筋に鼻を押しつけた。警察が武装ヘリから催涙ガスを撒布し、ユニコーンはまたどこかへ逃げ出してしまった。
2000年12月号掲載作の再録。人間の空想には限界があるというのはよく言われる話で、新しい動物を作ろうとしても神話の世界の生き物の似姿になってしまうあたりはまだしも、その生き物の行動パターンまで既に詩に歌われているのが可笑しい。それでも馬は馬であって、処女以外は殺すというのは所詮伝説でしかありませんでした。
「浜辺のキャビン」ジーン・ウルフ/村上博基訳(A Cabin on the Coast,Gene Wolfe,1984)★★★★☆
――ティムはコテージに戻り、マットで足を拭いた。リッシーはもう起きてベッドにすわっていた。「出発だ。リノまでほんの五百マイル。あしたの朝には結婚できる」。つぎの朝、目覚めるとひとりだった。警官に届けたが海で流されたのなら生きている可能性は低いと言われた。ティムは沖にある船を目指した。リッシーはそこにいるという確信があった。
1986年2月号掲載作の再録。婚約者との会話を通して、末っ子のティムにはどうやら父親との確執があるらしきことがわかってくるものの、突如として怪奇小説の世界に変わってしまうので戸惑ってしまったのですが、最後にはきちんと父親との話に戻って来ました。この手の人ならざるものの約束は、嘘はつかないがズルをすると決まっているようです。
「太陽を釣り針にかけた少年」ジーン・ウルフ/中村融訳(The Boy who hooked the Sun,Gene Wolfe,1985)★★★☆☆
――八日目、ひとりの少年が釣り糸を海に投じた。八日目の太陽はちょうど昇るところで、餌に食いついた。少年は釣り竿をぐいっと引いて、釣り針を引っかけ、にんまりした。太陽は一日じゅうのたうち、跳ねまわった。村の男がいった。「太陽を放してやれ。太陽が疲れはてたら、冬が来て花が残らず萎れてしまう。太陽をたぐり寄せたら旱魃が来て運河が干あがってしまう。釣り糸を切れ」。しかし少年は笑っただけだった。
冬至に合わせて発行された限定版の小冊子に掲載された作品で、冬が来ることの由来譚になっています。
「金色の都、遠くにありて(前篇)」ジーン・ウルフ/酒井昭伸訳(Golden City Far,Gene Wolfe,2004)
――少年は夜ごと異世界に旅する夢を見ていた。かれがそこで彼方に見たのは、黄金の都だった(袖コピー)
後篇は10月発売の次号に掲載。
「ジーン・ウルフ一問一答」ジェイスン・ポンティン/中野善夫訳
「(チェスタトンの)魅力は、話がどこへ向かおうとも議論を厭わないところだろうか」というのには、なんだか笑ってしまいました。
「ジーン・ウルフ主要著作リスト・解題〔増補改訂版〕」柳下毅一郎・編集部編
こんなに未訳作があるとは思いませんでした。訳されることはあるのかな。。。
「乱視読者の小説千一夜(63)島博士とウルフ」若島正
二年前に定年退職し、現在もウルフの読書会をおこなっているそうです。
「西田藍の海外SF再入門(26)静かな哀しみ『書架の探偵』」
「劉慈欣『三体』刊行記念 大森望×藤井太洋トークイベント採録」
ヒューゴー賞を受賞してから中国でもSF自体の地位が上がったようです。内容はというと「なにがとび出してくるのかわからないというビックリ箱」「バカSF」「超トンデモSF」という言葉が飛び交い、書評欄では鏡明氏が「無理が幾つも出てくるのだが、それらのものから感じられるのはSFの原初的な力、センス・オブ・ワンダーと呼ばれるものに近い」と書いていて、何らかの力強いところがあるのはよくわかりました。
「『なめらかな世界と、その敵』刊行記念 伴名練総解説」
SF短篇集刊行に合わせての小特集。12篇のうち年刊SF傑作選に収録された短篇が5篇もあり、そのうち4篇が短篇集に収録されるようです。百合特集に掲載の「彼岸花」はいまいちだった記憶があるのですが、気になる作家ではあります。
「『さよならの儀式』(河出書房新社)刊行記念 宮部みゆきインタビュウ」
なるほど近年になって『NOVA』で意識的にSF短篇を書いていたようです。
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