『ビビを見た!』大海赫=作・え(復刊ドットコム)★★★★★

 トラウマという言葉とともに紹介されていたとあっては、ダークファンタジー好きとしては見逃せません。

 目の見えない少年「ホタル」はある日突然「よし おまえののぞみを かなえてやろう」という何者かの声を聞き、七時間だけ目が見えるようになりますが、ホタル以外の人間は反対に目が見えなくなってしまいます。町中の人間が盲目のまま「敵」と戦おうとするなか、汽車に乗ったホタルは、全身緑色で触覚と羽根の生えた少女と出会います。ホタルによって「ビビ」と名づけられた少女は、大男から逃げており、「たすけて」と訴えます。

 1ページ目を開いたときにはまだその意味を知らなかった、「7」までしかない数字と「7」までしかない時計。そして冒頭と巻末の黒いページ。初めて目にした色「赤」とビビの色「緑」に彩られたページ。それらが絵本という形を最大限に活かしていました。

 いもむしの列車は「異世界」の印であると同時に、逃げても逃げても追いつかれる遅々としたもどかしさの現れでしょうか。

 理不尽な「神」による視力の付与と世界を襲う災害という混乱のなかで、わけのわからないまま現れて存在する巨人や妖精それ自体は、まぎれもない童話の世界の住人でありながら、現実を浸食するやはり理不尽な存在です。彼らの追いかけっこという大冒険に手に汗握っているうち、かぎられた時間は過ぎ去りいつしか時間は一分半前に……。この時間の飛ぶ感覚が非常にリアルで恐ろしくなりました。ホタルはぎりぎりで間に合いましたが、人はこんなふうに大事なものを捕え逃しているのかもしれないと思うと、身が引き締まる思いです。

 カウントダウンと切なる叫びが頭にこびりついて離れず、タイトルに「!」のついているのにも納得できました。

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