『アフタヌーン』2015年12月号「冬の海」環縁、『S-Fマガジン』2015年12月号No.712

アフタヌーン』2015年12月号(講談社

『フラジャイル』17「岸先生、赤ちゃんが大変です!」18「岸先生、高柴先生も大変です!」
 ドラマ化&4巻発売記念の巻頭カラー&二話掲載。セカンドオピニオン外来を訪れた、肺炎の赤ん坊の母親。同意書にサインするにも後悔はしたくない、と母親が見せた病状メモを見て、高柴先生は何か気づいたようですが……。宮崎先生の異動の原因ともなった経営合理化の波が、高柴先生を襲います。 セカンドオピニオンになってから話の幅が広がりました。岸先生じゃ無敵すぎて。

げんしけん二代目』117「くじアンはもう終わってた」木尾士目
 とばっちりでケーコに、波戸への対する気持を本人にバラされた矢島。波戸と矢島の会話は意外な展開へ……。 意外、とは書きましたが、よく考えればきっかけとしてはいたって当たり前、ですね。

ヴィンランド・サガ』121「狩る者狩られる者8」幸村誠
 エイナルが無防備に歩いているのを見たトルフィンは、撃たれる前に賭に出た。装填に時間がかかるという弩の弱点を突き、復讐者の前に出ようとする。 

『螺旋じかけの海―音喜多生体奇学研究所―』「花と揺れる嘘(前編)」永田礼路

「海の向こう、月の裏側」下川咲
 ――ボクはいじめられっこだけど、もし誰かが唯一の友だち狭山弓彦(ユミちゃん)を傷つけるようであれば、そいつをぶん殴ってもいい。自殺した姉を犯しユミちゃんに殴打された父親は、寝たきりでまだ生きていた。あるとき突然、ユミちゃんは彼氏と一緒にオーストラリアに行くと言いだした。

 四季賞2015年秋のコンテスト四季大賞受賞作。ひたすらクサイ人たちばかりが出てくるクサイ話で、気持ちが悪かったです。
 

「冬の海」環縁 ★★★★☆
 ――瞬と遙は同い年、長い付き合いだけど2人きりで暮らすのはこれが初めてだ。会社の同僚には、独り暮らしで彼女もいないと伝えてある。ゲイだと噂のある後輩に、遙と2人でいるところを見られてから、瞬の態度がおかしくなった。

 『good!アフタヌーン』2015年3月号に「高天原の三姉弟」が掲載された新人さんの読み切り。「高天原の三姉弟」は良い意味でへんてこな話でしたが、こちらは「ゲイ」「近親相姦」と一言でまとめられる分だけおとなしい作品です。「誰も見ていないから こうして手をつないでくれるでしょ」というタイトルに、マイノリティの気持が凝縮されているようです。
 

『マイボーイ』(21)木村紺
 話題の統一戦でチャンピオンに挑む刀原レイジは、弥太朗の友人だった。マイペースなレイジに戸惑う響たちだったが……。

カナリアたちの舟』5「名前」
 種が滅びる寸前、地球人の意識を再利用して作られた「被験体」の唯一の生き残りが、北沢千宙だった。つまらない。地下に眠っている地球人を星に放ってみたら面白いんじゃないか。そうして放たれた4人目の地球人が、ユリだった。
 

『S-Fマガジン』2015年12月号No.712【第3回ハヤカワSFコンテスト受賞作発表!】

「SF Animation × Hayakawa JA」
 「Projet Itoh」「コンクリート・レボルティオ」「蒼穹のファフナー

『ユートロニカのこちら側』「第二章 バック・イン・ザ・デイズ」小川哲 ★★★★☆
 ――家出同然に飛び出してから連絡も取っていなかった両親が、土砂災害で死亡した。両親が遺したのは「情報開示許可権」。両親はコンタクトレンズ式のカメラと集音マイクを装着して、「アガスティアリゾート」のために、生活情報をマイン社に提供していたのだ。

 第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作の第二章。連作短篇なので独立して読めます。主人公が若いころ電車のなかでおこなっていた、父から教えてもらったという「バンドゲーム」が秀逸で、最初から引き込まれます。家族ドラマの側面が強いのですが、取り返しのつかないことは取り返しがつかないままながらも、両親の視点を追体験するというSF的な行為を通して、ちょっとだけ何かが変わったのなら、それはやはりSF的でもあるのでしょう。

「小川哲インタビュウ」
 

『世界の涯ての夏』(冒頭)つかいまこと
 ――ゆるやかに終末に向かう世界で、「時間」と「記憶」を問う(袖惹句より)

 佳作受賞作。

「つかいまことインタビュウ」

「書評など」
 今月はあまり面白そうな本がありませんでした。円城塔『エピローグ』『シャッフル航法』、たかみち『百万畳ラビリンス』くらいでした。

「『多々良島ふたたび』刊行記念トークショー山本弘×桜井弘子

「終末を撮る」パオロ・バチガルピ/中原尚哉訳(Shooting the Apocalypse,Paolo Bacigalupi,2014)
 新刊『神の水』の登場人物の前日譚。

「乱視読者の小説千一夜(48)本当は怖いナボコフ若島正

大森望の新☆SF観光局(48)心筋梗塞屍者の帝国、その他の物語」

「サイバーカルチャートレンド(65)フラッシュの時代が終わりアニメーションGIFが生き返った」大野典宏

「サはサイエンスのサ(240)人にできて今の人工知能にできないこと」鹿野司

「SFのある文学誌(43)」長山靖生

「2015ワールドコン・レポート」巽孝之
 池澤春奈の連載にも書かれてあったけれど、今年のヒューゴー賞はバカみたいなことになっていたようです。

「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇(24)」横田順彌
 

「ビューティフル・ボーイズ」シオドラ・ゴス/鈴木潤(Beautiful Boys,Theodora Goss,2012)★★★★☆
 ――ビューティフル・ボーイは人間の女性を引きつける特有のフェロモンを発していると考えられる。これまでの調査では、人間の男性と同じ手順で交尾し、繁殖することがわかっている。雄しか生み出さない種だと考えられる。繁殖にはほかの種の雌を利用する。

 著者のことばにある「自分の理解を超えたもの」とは異星人のことではなく恋や浮気のことであり、「自分の知っている方法で説明をつけようともがく」というのは、恋や浮気を科学者が異星人のせいにする――話のようでもあります。
 

   


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