百合特集ということになっていますが、実は受賞作特集でもありました。
「月村了衛インタビュウ」聞き手:青柳美帆子
月村氏が脚本家だったころに書いた『ノワール』に影響を受けたと、〈コミック百合姫〉編集者が本誌インタビュウで話していたことから月村氏インタビュウが実現したようです。月村氏自身は「「百合」作品を書こうと思って書いたことは一度もありません」が、「今の読者は「百合という概念」をあらかじめダウンロードし、インプットした上で作品に接する傾向があるのではないかと考えています」というのが示唆に富んでいます。高校時代のエピソードの読まれ方や、メロドラマが主流ではなくなってきているという時代認識など、百合に対する考察が興味深く、鋭いので、百合に興味はなくとも一読する価値があります。
「SFのある文学誌(62)直木三十五の未来戦記、川端康成の臓器移植――時代の尖端の先にあるもの」長山靖生
「書評など」
◆高原英理『エイリア綺譚集』、伊坂幸太郎『フーガはユーガ』、森見登美彦『熱帯』、平凡社ライブラリー『チェコSF短編小説集』、『ドラキュラ紀元一九一八 鮮血の撃墜王』、黒田硫黄『きょうのカプセル』、澤村伊智『などらきの首』E・L・ホワイト『ルクンドウ』など。
「本物のインディアン体験TMへようこそ」レベッカ・ローンホース/佐田千織訳(Welcome to Your Authentie Indian ExperienceTM,Rebecca Roanhorse,2017)★★☆☆☆
――客たちに「本物のインディアン」をVRで体験させるサービス〈ヴィジョン・クエスト〉に従事している主人公。『ダンス・ウィズ・ウルブズ』や『ローン・レンジャー』、『小さな巨人』などの映画を観ながら、案内役としてそれらしいインディアンになれるよう日々励んでいる。でっち上げなんて屈辱的な仕事だと、妻にはよく思われていないものの、彼の仕事はたしかで、会社でも売上はトップクラスl。だが、ちょっとしたつまずきで、売上が急落してしまう。鬱屈した日々を過ごすなか、客としてひとりの男がやってくる。「ホワイト・ウルフ」と彼に名前を与えた主人公は、どんどん彼と接近していき……。(解説あらすじより)
2018年度ヒューゴー賞・ネビュラ賞のショート・ストーリー部門&ジョン・W・キャンベル新人賞受賞作。ものすごくありきたりなのですが、昔は電脳空間とかいう架空の世界で描かれていたことが、VRという現実的な技術で語り直されたことに意味があるのかもしれません。
「知られざるボットの世界」スザンヌ・パーマー/中原尚哉訳(The Secret Life of Bots,Suzanne Palmer,2017)★★★★☆
――舞台はおんぼろの戦艦。ずいぶんと久しぶりに、艦内最古の多機能ボット「ボット9」が起動された。艦のAIは、ボット9に艦内に侵入した害獣を駆除せよと命じる。もっと華やかな任務をやりたいと思いながらも、忠勤を旨とするボット9はすみやかにことにあたる。途中、修復作業をおこなうシルクボットや船殻ボットに出会いながら、ボット9は、この艦が廃棄処分されるところを不具合を抱えたまま再就航したことを知る。いっぽう、艦長のバライェは頭を悩ませていた。人類は異星人と交戦中だったが戦況は悪化の一途をたどっており、また、事故につながりかねないほどの艦の古さが航行の足を引っ張っていたのだ。(解説あらすじより)
2018年度ヒューゴー賞ノヴェレット部門受賞作。これまた古き良きテイストの作品です。古いボットが人間や最新機を抑えて奮闘する姿が小気味よい。初期のボットが多機能モデルで、新しいものほど分業タイプに特化されているところや、初期のボットには付いていないネット機能が最新ボットには標準装備されているところなどは、現代的なディテールだと思います。
「トランプ、またはトランスヒューマン――第76回世界SF大会「サンノゼ2018」&ヴィクトリア大学国際会議レポート」巽孝之
「乱視読者の小説千一夜(61)遠すぎた記憶」若島正
昨年11月15日に亡くなったウィリアム・ゴールドマンの『プリンセス・ブライド』について。
「西田藍の海外SF再入門 22回目は最後に読むべき『ノーストリリア』のお話です」
確かに購入したはずなのに覚えていないのは、恐らく読むのに挫折したからだと思うのですが、シリーズものなのでどうやら最初に読んでもよくわからないらしい。
「堺三保のアメリカン・ゴシップ(88)アメリカで映画を撮るということ」
契約でがんじがらめなのがいかにもアメリカらしいところです。
「大森望の新SF観光局(65)真冬の書き下ろし日本SFアンソロジー祭り」
「『カート・ヴォネガット全短篇1 バターより銃』刊行記念」大森望×柴田元幸トーク・イベント再録
小川哲も途中参加。
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