『幽』vol.20【怪談文芸アメリカン/第8回「幽」怪談文学賞&第5回「幽」怪談実話コンテスト】

 今回はアメリカと怪談というかなり意外な切り口の特集です。口絵写真は東氏本人の撮影。薄紫の水面に映った木の杭が黒い一本の棒のようで素晴らしく不気味です。それから見るたびに思うのですが、ラヴクラフトって作者の顔がすでに雰囲気あるんですよね。

紀田順一郎×荒俣宏
 アメリカの怪談(怪奇小説)の日本への影響と、「イギリス以上に幽霊屋敷にこだわる」点や、ラヴクラフトのことなど。

ラヴクラフトの故地をたずねて」東雅夫

「ふるさと怪談レポート in TEXAS」門賀美央子
 ワールドコンでの開催。ハーン「盆踊り」など。「東日本大震災と怪談」。

「風間賢二×東雅夫
 イギリス系作家〜ラヴクラフトアメリカ作家〜パルプ雑誌モダン・ホラー

アメリカの地方に顕れた宇宙的恐怖」ピーター・バナード

「怪談作家ポー 非生命の幽霊、非人間の幽霊」巽孝之

「センセーショナル・ルポライターの誕生――シンシナティ時代のラフカディオ・ハーン」池田雅之
 記者時代のハーンの犯罪実話が紹介されていて、これがかなりエグいです。

「西海岸《ウエストコースト》の幽霊たち」田辺青蛙

アメリカ怪談私の一冊」柴田元幸金原瑞人中村融若島正
 金原氏、岩波少年文庫から三冊目の翻訳怪談集を出す予定という嬉しいニュースが。『The Mammoth Book of Modern Ghost Stories』というアンソロジードルトン・トランボ『The Remarkable Andrew』という未訳作が紹介されてます。
 

ジキニンキ」ラフカディオ・ハーン円城塔
 ハーンの作品を「当時の英語圏の読者のように」読むことを目的とした翻訳。かなり刺激的で挑戦的のように見えながら、じつは原点回帰。「mile」を「マイル」と訳すことは果たして「当時の英語圏の読者のように」読むことなのかどうか、という問題は残るものの。(当時の英語圏の読者にとっての「mile」は、現代の日本語圏の読者にとっての「キロ」に相当するのではないかと思うのです)。

「青天狗の乱」恒川光太郎
 ――私には、島流しの憂き目にあった者たちに、縁者からの差し入れ(見届物)を運んで渡す副業があった。居酒屋を営んでいたが妻にはめられ下千島に送られた鷺照《ろしょう》という若者に届けてくれるようにと、父親から預かった長櫃のなかに、「つけていると死なない」と伝わる天狗面があった。

 幕末の怪談を、当時を生きた当事者が回顧するのですが、終幕にいたって明治時代すら過去のものであったことが明らかにされます。さらにそれを現代の読者が読むのですから、一人称といえどももはや幾重にも膜を張った遠い出来事。怪談と語りにとってはこれがしあわせな。天狗面をミステリ小説のように用いた解釈が作中人物により語られており、そうした意味では現代的な視点も導入されています。推理をする「小学校の教員」はもしや作中にこっそりしのばせた実在の人物か?と思ってそれらしき人物の経歴を確認してみたのですが、考えすぎだったようです。
 

「幽的民譚 怪談逍遙(8)地獄の章」南條竹則
 ミルトン『失楽園』、A・E・ハウスマン「地獄の門」。
 

「決定! 第8回 幽怪談文学賞
 「ヒロインがいい」「ドイツ・ロマン派の鉱山幻想みたい」「評価するとかしないとか以前にとても面白かった」という深田子萩『この世の富』が読みたいです。特別賞なので出版されるのかどうか……。

「そこはかさん」沙木とも子
 ――思い起こせば、そこはかさん、と曾祖母はいくぶんの親しみさえ込めて、あれたちのことを呼び習わしていたのだった。築後百五十年になんなんとする我が家の数多ある物陰、隅々の暗がりにひそむそこはかとない存在に、最初に気づかせてくれたのは曾祖母だった。私が十一の時に九十三歳でみまかった、母方の曾祖母のおばさまこと、ナミエさんである。

 短編部門の大賞受賞作。尾崎翠(?)か誰かに似ている冒頭の文体が好き。ただしその文体もずっとは続かないし、会話になると方言になってしまいます。沙木のせいではないので理不尽な物言いではありますが、bk1怪談大賞で方言が濫発されたせいで、怪談に方言はもう食傷してしまいました。
 

「決定! 第5回 怪談実話コンテスト」
 

「江戸怪談実話の迷い道(10)人はいずれを恐るるか」高原英理
 『諸国百物語』第一話とその類話『曾呂利物語』「板垣の三郎高名の事」。怪談の定型をくずした怖さがあります。
 

「怪談マガジン探訪(10)『SFマガジン』の「怪奇・恐怖特集号」」東雅夫
 「怪奇・恐怖」というと何だか場違いですが、「怪奇・幻想」だとしっくりきます。
 

「霊ガタリの系譜(3)」東アジア恠異学会/村上紀夫・笹方政紀
 「甘酒婆」なる疫病神。
 

「スポットライトは焼酎火(20)制作スタッフに聞いたNHKスペシャル「亡き人との“再会”」の現場」
 番組は見ていませんが、インタビューを読むかぎりではすごくフェアな取り組み方をされてるようです。

「書評など」
澁澤龍彦訳『暗黒怪奇短篇集』、『〈江戸怪談を読む〉実録四谷怪談――現代語訳『四谷雑談集』』が刊行されていたんですね。

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