『叶えられた祈り』カポーティ/川本三郎訳(新潮文庫)★★★☆☆(第二部は★★★★★)

 第一部はやはり大長篇を意図していたのでしょうか、まるで通行人の流れを切り取って描いたかのように、登場人物がぱらぱらと入れ替わりながら物語が進みます。顔見せというか背景紹介というか、ごくあっさりと書かれてはすぐに次の場面に映るので、正直ちょっと退屈でした。つまらなくはないのだけれど。

 第二部になるとケイト・マクロードという女性に焦点が当てられて、これがとてもいい。ケイトのところにマッサージをしにいったジョーンズが、ケイトのあまりの美しさに自然に興奮してしまうシーンのなんとも表現しようのないやるせなさ(というかなんというか)には、ああこれこそがカポーティだと嬉しくなりました。訳者あとがきの言葉を借りれば「無垢(とその喪失)」。いやジョーンズは無垢でもなんでもないはずなんだけどさ。なんかきゅーんとなるところがある。

 それだけに第二部が尻切れトンボなのは返す返すも残念です。もし続きが書かれていたのなら、いつかどこかで原稿が発見されませんことを。

 第三部はどちらかというと第一部と同じ。舞台が若きジョーンズの周辺から、上流階級に移っただけで。本人たちを知っていればまたワイドショー的な楽しみもあるのだろうけれど……。

 ハイソサエティの退廃的な生活。それをニヒルに眺めながらも、そんな世界にあこがれている作家志望の男娼。この青年こそ著者自身の分身である。また実在人物の内輪話も数多く描かれていたので、社交界の人々を激怒させた。自ら最高傑作と称しながらも、ついに未完に終わったため、残りの原稿がどこかに存在するのでは、という噂も。著者を苦しませ破滅へと追い込んだ問題の遺作!(裏表紙あらすじより)
--------------------

叶えられた祈り
カポーティ〔著〕 / 川本三郎
新潮社 (2006.8) ISBN : 4102095071
価格 : ¥580
amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。

------------------------------

 HOME ロングマール翻訳書房


防犯カメラ