雑誌のCD紹介欄で知りましたが、そうでなければまず存在すら知らずに終わるところでした。地味なんですよねー。“村上春樹トリビュート!!”とばばーんと表だたせてないんです。本人とは関係ないところで勝手にやってるってことなんでしょうか。まさかね。
豪華ラインナップと豪華メンバーにひかれて買いました。プロデューサーの方は以前に『ノルウェイの森』のイメージアルバムも作っているそうです。好き嫌いはありますが、企画ものっぽいCDにしては、全体的にけっこういいアルバムだと思いました。
1曲目はマイケル・ブレッカー「中国行きのスロウ・ボート」。原曲は知らないんですけど、もともとピアノから入る曲なんでしょうか。ピアノとドラムの前奏(?)が終わると、メインのサックスが始まります。これが見事に「ああ、今自分は中国行きのスロウ・ボートに乗ってるんだなあ」という感じでよい。ところどころあわただしくなるのは急流?時化?
2曲目はオーケストラによる「エンド・オブ・ザ・ワールド」。村上作品は『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』ですね。う〜ん、好みなんだろうけれど、やっぱりオーケストラにしちゃうと、良くも悪くもプロデューサーの方も言っている「荘厳なサウンド」なんですよね。だけど印象に残るのは、やっぱりギター・ソロだったりピアノ・ソロだったりトランペット・ソロだったりするわけで。
3曲目はジェヴェッタ・スティール「ノルウェイの森」。こういう、クリア・ボイスで朗々と歌い上げるのって苦手です。ビートルズの原曲がどこともしれないエキゾティシズムを漂わせていたとすると、このバージョンは透明な水の中を泳いでゆく感じ。歌詞の意味まで違って聞こえます。鳥は飛び立っていた。そこでぼくは火をつけた。ってのが何かからの解放のような。
4曲目はチック・コリア「神の子どもたちはみな踊る」。現代ジャズってピコピコしてるゲーム音楽みたいで苦手なのだが、これはかっこいい。凝りに凝った演奏を聴いていると、未読の原作も読みたくなってくる。流れるような、を通り越して飛ぶようなピアノ・メロディが、何度もくり返される落ち着いたベース・ラインに乗って演奏されると、身体はリラックスしたまま精神だけ高揚してゆくようです。
5曲目はジェフ・ローバー「サウス・ベイ・ストラット」。これは一聴かっこいい。ルパン三世あたりの挿入歌にでも使われていそうな、もろスウィングしまくりのジャズらしいジャズです。こういうのって、よくNHKのスポーツダイジェストなんかでBGMにかかっているのを聴くと、かっこわるっっ!って思うんだけど、単独で聴くとやっぱかっこいいです。
6曲目はケニー・ランキン「イパネマの娘」。「イパネマの娘」自体があまり好きではない人間としては、何とも言い難い。有名な「But each day when she〜」のくだりはちょっと盛り上がりますが。
7曲目はロン・カーター「デイ・トリッパー」。プロデューサーの解説曰く、「この曲の命といえばイントロのリフ」だそうですが、クレッシェンドの利いたコテコテのイントロがたまらない(^^)。どうしてもわたしは「デイ・トリッパー」と「ドライヴ・マイ・カー」がいっしょくたになってしまうので、原曲の印象が漠然としています。どんな曲でしたっけ? 「サウス・ベイ・ストラット」がかっちょいいアンちゃんたちが気合い入れまくりで演奏しているとしたら、この「デイ・トリッパー」はチョイ悪オヤジが余裕ぶっこきで演奏している感じでしょうか。
8曲目はデイヴィッド・ガーフィールド「ダンス・ダンス・ダンス」。アイタタタ……(>ω<)。なんだかスーパーで流れてそうな曲です。4分過ぎくらいにある「♪(休符)♪(休符)」というコテコテの見せ場アレンジもどうなんだろうと思ってしまった。
9曲目はサディス・クーク・ハレル・グループ「ニューヨーク炭鉱の悲劇」。ア・カペラです。これも好みの問題ですが、アカペラはあんまり……。
10曲目、ラストは2曲目と同じくオーケストラによる「国境の南」。これもプロデューサ解説にあるとおり、「映画のラスト・シーンのような」曲です。エンド・ロールが似合いそう。
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