『竜を駆る種族』ジャック・ヴァンス/浅倉久志訳(ハヤカワ文庫SF)★★★☆☆

 『The Dragon Masters』Jack Vance。

 ジャック・ヴァンスというと、「五つの月が昇るとき」や「月の蛾」など、異世界ということばすら追いつかないようなへんちくりんな世界を描いた作家として記憶に残っていた。しかし本書である。『竜を駆る種族』というタイトルと、カバーイラスト……なんだか苦手なヒロイック・ファンタジーぽくてあまり期待はしていなかったのだ。何の何の。余計な心配だった。

 まず、ドラゴンといってもファンタジーのドラゴンではない。かつて惑星に攻め入ってきた爬虫類型の宇宙人を捕らえて家畜化したものなのである。一方で人類の方も捕らえられて家畜化され……こういうのを諷刺とかではなく、そのままぽーんと作中に放り込んでしまうからたまらない。

 科学力が退化してるんだか何だかまったくわからないような、えらい変種のドラゴンが出てきて、一瞬戸惑うんだけど、これはドラゴンではなく元は宇宙人なのだから、理性的な行動ができて当然なのだと気づく。つまり家畜というよりは奴隷と言ったほうが適切なのだろうか。

 家畜化された人類との会話や、宗教民族波羅門との会話など、異なる思想の者どうしでまったく話が通じない。こういうところはいかにもジャック・ヴァンスだなと思う。こういう部分だけ抜き出して特化させたのが「月の蛾」だとも言える。でも本書ではこういうところはむしろ脇筋で、メインはやはり戦闘シーンということになるだろうか。

 カーコロというのが絵に描いたような馬鹿殿様なので、彼がぎゃあぎゃあ騒いでいるあいだは飽きることはない。一方で別の一族の理知的なリーダーがバンベック。カーコロが〈アクション〉担当だとしたら、こちらは〈謎〉担当だろうか。禅問答のように波羅門の秘密を探る。

 中篇という長さゆえ仕方がないのかもしれないが、ベイシックが襲ってきてからの展開が、意外なほどに単調だった。迎え撃つための準備万端に対する伏線説明がまったくないから、せっかくの騒乱戦がすべてご都合主義に見えてしまう。本来はアクション担当ではないバンベックが活躍するのも役者不足か。そんなあっさり勝てちゃっていいの?

 後半をもうちょっとふくらませてくれていたらなあ、と残念でした。

 はるかな未来、人類最後の生き残りが住むさいはての惑星エーリスでは、風雲急を告げていた。バンベック一族の住むバンベック平を幸いの谷の一族カーコロが狙っていたのだ。異星の爬虫類種族を育て、さまざまな竜――阿修羅や金剛や一角竜から成る軍隊に仕立てたバンベックとカーコロは、まさに一触即発の状況。しかも、エーリスを狙う爬虫類型の異星人ベイシックが襲来しようとしていたのだ! 名匠のヒューゴー賞受賞作。(裏表紙あらすじより)

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