特集自体も魅力的なんだけど、高野文子の対談が掲載されていたので迷わず購入。来月号には高野文子論が載るそうです。
「長篇小説はどこからきてどこへゆくのか」丸谷才一インタビュー
長篇小説とは何かを考えるとっかかりとして、文学賞で選考するときの基準が三つ挙げられています。1.作中人物。2.文章、3.筋(ストーリー)。+先行作品の引用(ハイジャック)。鴎外の人気がないのは登場人物にあまり魅力がないこともあるのでは?なんて面白い指摘も。「秋声じゃ人気ないし」、「パスティーシュ、むずかしい」から鏡花の文体にしたという『輝く日の宮』の裏話も読めます。
「エッセイ・私の一冊 『虚栄の市』」河野多恵子
小説とはゴシップである、なる名言あり。
「長篇小説とは「完結する」ものである」池澤夏樹インタビュー
ピンチョンはパラノイアを書いた作家であり、「自己不信がアメリカの空気にはたっぷり含まれている」という発想は、池澤氏自身が述べているように「アメリカ論としてのとてもおもしろい」ものです。腑に落ちすぎて怖いくらい。『ユリイカ』2008年3月号【新しい世界文学】でも盛んに言われていた、旧植民地作家という流れについても触れられていました。
「わたしの好きな10の長篇」デイヴィッド・ロッジ/松尾映里訳
「アメリカの小説家たちは、日常の話し言葉を用いた「私」による語りが抜群にうまい」と述べて、『ライ麦畑』をその代表に挙げています。こういうのを読むと、『ライ麦/キャッチャー』は日本語版だからピンと来ないのかなぁと思ってしまいます。
「海外の長篇小説ベスト100」
アンケートの常として、特にベスト10はものすごく優等生的な結果になってます。統計的にいって当然でしょうね。129人のアンケート回答もすべて掲載されているので、面白いのはそっちの方かな。江國香織はアンケート回答の文章も巧いなあ、とか。北村薫は版元まで指定してあるのがらしいなあ、とか。小谷野敦は相変わらず無意味に挑発的だなあ、とか。ほかに青山南・アクーニン・荒川洋治・池内紀・池澤夏樹・いしいしんじ・岡野宏文・小川高義・小川洋子・小野寺健・恩田陸・角田光代・鹿島茂・加藤典洋・金原瑞人・亀山郁夫・川本三郎・岸本佐知子・木田元・紀田順一郎・木村榮一・小池昌代・河野多恵子・鴻巣友希子・児玉清・最相葉月・関川夏央・巽孝之・中条章平・鶴見俊輔・豊崎由美・永江朗・沼野充義・野崎歓・藤井省三・藤本和子・保坂和志・松浦寿輝・水村早苗・吉田篤夫・四方田犬彦・若島正ほか。
「エッセイ・私の一冊 『モンテ・クリスト伯』」川上弘美
ある場面が、ダンテスの人間らしさを示しているのではなく、「さらなる神性の深まりを示すものだったのではないか」という、読み方。
「意外だ。惜しい。あ、忘れてた!」青山南×加藤典洋×豊崎由美
アンケート結果を受けての鼎談。
「エッセイ・私の一冊 『白痴』」いしいしんじ
「「チボー家の人々」と「黄色い本」」高野文子×鶴見俊輔
本の読み方とか、やっぱ独特です。話の端々から、漫画からイメージする高野文子そのまんまな感じがびしばし伝わってきました。たまにその場で相手の話を分析し出す人とかもいるけど、鶴見さんはそんなこともなく、ちゃんと対談になっていたのもよかった。高野さん漫画描いてほしいな。
「各国のベスト100、ベスト50」
「トマス・ピンチョン・コンプリート・コレクション(仮)」
2009年春、新潮社より刊行予定だそうです。現在発売中の新作『ヴァインランド』以外はすべて新訳・訳し下ろし。もちろん『重力の虹』も新訳刊行予定。ガルシア=マルケスに続いて、新潮社はやることの桁が違う。
「海外長篇の面白さを伝える本」編集部
モーム『世界の十大小説』と篠田一士『二十世紀の十大小説』。
「コンゴ・ジャーニー(冒頭)」レドモンド・オハンロン/土屋政雄訳(Congo Journey,Redmond O'Hanlon,1996)
――コンゴの密林の奥地にひっそりとある湖に、モケレ・ムベンベという恐竜が棲息している、らしい。ピグミーの人々に言い伝えられているばかりか、生物学者が実際に目撃してりもいるという。このコンゴ版ネッシーを一目見ようと、オハンロンは、コンゴに乗り込んでゆく。
新潮社から四月に発売された旅行記『コンゴ・ジャーニー』からの抜粋。あらすじを読んだだけでもけったいな雰囲気を醸し出しているけれど、内容も与太ばっかり飛ばして破壊力抜群です。
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『考える人』2008年5月号
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