『奇想天外 復刻版 アンソロジー』山口雅也編著(南雲堂)★★☆☆☆

 四期にわたる雑誌『奇想天外』掲載作を抽出し、当時の体裁でまとめたアンソロジー。小説・エッセイともに、B級もしくは歴史的意味のものが大半を占めていて、いま読んで面白いものではありませんでした。。
 

『奇想天外』=「謎解きが好き」 「大人になれなかった人」の魂」編集主幹・曽根忠穂インタビュー(2017)
 

「雑誌戦国時代、城主たちは――奇想と幻影は交差したのか」山口雅也(2017)
 

「真実の文学」筒井康隆(1979)
 

「奇想天外小説傑作集再録」

「宇宙探偵小説作法」H・F・エリス/浅倉久志(Space-Crime Continuum,H. F. Ellis,1954)★★☆☆☆
 ――凶器はイプシロン光線かそれに類似した手段で、被害者から二光年以内の距離から発射されたものだ……。近く出る私の小説『点と線と面』からの一節だ。白状するとアリバイをどう処理するかがむずかしかった。

 こういう身内ネタみたいな作品を冒頭に置いてしまうところが、良くも悪くも編者らしいのでしょう。探偵小説が探偵小説たりえるためには、フィリップ・ストロング探偵のような選択が必要なようです。
 

「不死の条件」ロッド・サーリング/久保田洋子訳(Escape Clause,Rod Serling,1960)★★★☆☆
 ――ビードカーは死を極端に恐れていた。自分は病気だと信じ、医者や妻にも怒鳴り散らしていた。だがあるときカットウォダラーと名乗る男が現れ、魂と引き替えに何年でも生きられると取引を持ちかけた。不死を手に入れたビードカーはスリルを求めて死に飛び込んでいったが、死なないとわかっていると案外つまらないものだ。

 オリジナルは『ミステリー・ゾーン』第1シリーズのエピソード6「良心を売った男」。翌年にサーリング自身の手によってノヴェライズされていて、『ミステリー・ゾーン2』にも「免除条項」のタイトルで旧訳が収録されています。映像化されるとしょーもない出来の作品でしたが、文章になるとここまで面白くなるのかと驚きました。
 

「金星の種子」エヴァン・ハンター/汀奈津子訳(What Price Venus?,Evan Hunter,1953)★★★☆☆
 ――トッド・ベリュウとフレッド・トルーパは、地球七区総司令官から出頭命令を受けた。兵士が足りない地球七区は、金星にある種子を必要としているのだ。任務のために青い髪、青い皮膚の金星人の姿になった二人は、金星人の村で暮らすことになった。金星人たちは毎日樹海から土を運んで小山に積んでいた。

 異なる文化との接触や権力者の私欲が描かれる、非常に古典的な内容の作品です。
 

「教授退場」ヘンリイ・カットナー/酒勾真理子訳(Exit the Professor,Henry kuttner,1947)★☆☆☆☆
 ――父親は透明になれた。チビのサムは頭が三つあった。おらは空を飛べた。ガルブレイスちう博士がおらたちの噂を聞きつけて研究させろとうるさくつきまとってくる。おらは散弾銃を細工してやった。

 ミュータントがしつこい研究者を超能力で懲らしめるというそれだけの話。
 

「時空海賊事件――ソーラー・ポンズの事件簿」マック・レナルズ&オーガスト・ダーレス日暮雅通(The Adventure of the Snitch in Time,Mack Reynolds&August Darleth,1953)★★★☆☆
 ――依頼人は太陽系連盟地球連邦警察捜査官トバイアス・アセルニと名乗った。いくつもある時空連続体の一つである、ソーラー・ポンズが小説の登場人物である世界からやって来たという。モリアーティ一味を捕えるために、名探偵が現実にいる世界を訪れたのだ。

 主人公が○○のいる世界に……というパターンはとりわけ昨今になって増えましたが、主人公目当てに向こうからやって来るというのが面白いですね。ポンズの解答も、パラレルワールドでの窃盗という設定を活かしたものでした。
 

「わすれない」鈴木いずみ(1977)★☆☆☆☆
 ――地球文化の洪水の中で、ミール星人は変質していった。両親も兄も失ったマリは、兄の恋人だった地球人のエマを、精神病院に訪ねてみようと思った。(扉あらすじ)

 この人の作品の価値は、その時代の空気をパッケージングしたことでしかないと思っていますが、本書の短篇群のなかでも異例の長さの解説を編者が寄せていることからも、その時代の空気に同調できる人にとっては響くものなのでしょう。描かれているのはどこまでも当時の日本であるのに、SF設定を用いることで、かつて存在したここではないどこかになっているのは見事です。
 

シャーロック・ホームズ アフリカの大冒険」フィリップ・ホセ・ファーマー/白川星紀訳(The Adventure of the Peerless Peer,Philip José Farmer,1974)★☆☆☆☆
 ――異常ウィルス培養方法がドイツ人スパイに盗まれた。引退してミツバチの研究をしていたホームズは、国の命運を担ってアフリカへ旅立ったが……(扉あらすじ)

 本書唯一の長篇です。フィクションのキャラクター勢揃いといった趣向ですが、愛情や批判精神といったものは感じられず、好きなキャラクターを出して好き勝手にハチャメチャ書かれた作品でした。
 

「SF・オン・ザ・ロック」岡田英明(鏡明(1974)

 SFとロックについて語ったエッセイ。KISSが新人として紹介されています。
 

「私的SF作家論(1) SFと「支配的修辞としての科学」」笠井潔(1980)

 サイエンス・フィクションにおける「サイエンス」とはレトリックである――。
 

「ぼくらのラスト・ヒーローは誰だ?(1) LSDを教養にまで押しあげたあの男は、もう脱獄に成功しただろうか?」団精二荒俣宏(1974)

 ヒッピーの教祖ティモシー・リアリーについて。
 

「奇想天外漫画劇場」

「ざ・まねえ」高信太郎(1977)
 

「アネサとオジ」高野文子(1980)
 

「5001年宇宙の旅」土田義雄&落書館(1977)

 お金が人を殺し出した世界を描いたナンセンス漫画「ざ・まねえ」。『絶対安全剃刀』収録「アネサとオジ」。高野文子も「Doors」担当として参加している「5001年宇宙の旅」。
 

「奇想天外対談競演会」

「昔のSFには謎ときサスペンスがあったけれど……。」都筑道夫vs.石上三登志(1981)

 今となってはピントのずれた発言内容でした。
 

「SFファンはプロレス派! ミステリファンは相撲派だ!!」鏡明vs.瀬戸川猛資(1981)

 タイトルはなんじゃこりゃ的なものですが、内容は示唆に富んでいました。ハードボイルドは「アメリカにまったく行ったことのない人間があれを読んだら、まるで別の世界の話」だから、SFとは「想像力の世界に共通するものがある」というのは、鏡氏がハードボイルドとSFが好きなだけなんじゃないかという気もしますが、いやだからこそこういう視点ができるのでしょう。瀬戸川氏がJ・G・バラードの評価に戸惑っているのが可笑しい。ジャンルが成熟してきた結果、最低限度の教養を経ずに来てしまうというのは皮肉なものです。本格ミステリを読んだときに、「キッタネェー」と思うか「傑作だ」と思うかが、やはりミステリのファンになるかどうかの分かれ道なのでしょうね。
 

「第一回奇想天外SF新人賞座談会」星新一小松左京筒井康隆(1978)

 新井素子を推しているのは星氏に先見の明があったのかどうか。筒井氏がこと文章に関しては保守的なのが意外でした。ただ、新井素子の文体は若さとか時代とかではなく新井素子という文体だから……いま読んでもふつうに引きます。
 

「カッチン」大和眞也(1978)★★☆☆☆
 ――このままでは太陽系第三惑星に無軌道小惑星が衝突してしまう。博士は地球人のなかから無作為に一人選び、警告を与えてやることにした。……緒方潤は所長命令により突然コンピュータ室に転属になった。……岡田純は先輩たちとゲームのプログラミングをおこなっていた。

 第一回奇想天外SF新人賞佳作作品。古いコンピュータのプログラミングを延々と描写されているときにはどうなることかと思いましたが、多元宇宙→小規模擬似宇宙と連なるアイデアの疾走にはわくわくしました。それだけに、地球人の日常パートが余計でしかありませんでした。

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