H・G・ウェルズ(Herbert George Wells)のユーモア小説を集めた短篇集。
「盗まれた細菌」(The Stolen Bacillus,1894)★★★☆☆
――コレラ菌の標本を無政府主義者に盗まれた細菌学者は必死で後を追うが……。
内容自体は他愛もないのですが、着の身着のままで犯人を追いかける夫を見た妻が「気が狂ったんだ」と思い込んだり、妻にたしなめられた夫が「ジャバー夫人は隙間風じゃあるまいし」と返したりするリアクションが面白かったです。
「奇妙な蘭の花が咲く」(The Flowering of the Strange Orchid,1984)★★★☆☆
――ジャングルで死んだ蘭の蒐集家が遺した蘭は、どうやら見たこともない新種のようだった。
吸血蘭に魅せられた愛好家が、それにもめげずに……というオチ。
「ハリンゲイの誘惑」(The Temptation of Harringay,1895)★★★★☆
――画家であるR・M・ハリンゲイは才能がない。いくどもいくども描き直し、茶と間違えて赤い絵の具を目に塗りたくったところ、絵のなかの人物が、絵の具を拭ったのだ。
僕に才能がないのは、誘惑に屈せず悪魔に魂を売らなかったからだい! 何て開き直った言い訳(^_^;。これはこれで駄目人間の鑑です。
「ハマーポンド邸の夜盗」(The Hammerpond Park Burglary,1894)★★★★☆
――夜間強盗がスポーツなのか、商売なのか、はたまた芸術なのかは、議論の余地のある問題だ。商売とするには技術が確立されていないし、芸術と見なすには報酬が邪魔をする。このスポーツには規則が定められておらず、残念なことに前途有望な初心者がこのために身を滅ぼした。
画家のふりをしてターゲットの屋敷に忍び込もうとするものの、犯罪的な色の絵の具を溶いていたために、天才か気違いかについて酒場で議論が巻き起こる、というようなのを読むと、あっち系の笑いのセンスは変わってないんだなあとしみじみ思いました。
「紫の茸」(The Purple Pileus,1896)★★★☆☆
――クームズ氏は人生が嫌になった。あのいまいましい妻の友達のジェニーが、日曜にピアノを弾き鳴らし、クームズ氏をチビの地虫呼ばわりして家から追い出したのだ。
尻に敷かれた亭主がキノコを食べてパワーアップ。
「パイクラフトに関する真実」(The Truth about Pyecraft,1903)★★★★☆
――「体重を減らすことができれば、何だってする」とあいつは言うのだった。「聞くところによると、東洋では――」「おい、僕のひいお祖母さんの秘薬のことを、一体誰に教わったんだ?」
笑いの層が厚くなりました。ダイエットに関することば遊びに加えて、疫病神に祟られる凶運のよさ。
「劇評家悲話」
「失った遺産」(The Lost Inheritance,1897)★★★☆☆
――中位の億万長者だった伯父が、おれに金を全部遺してくれた。遺産てものも、ありがたいとはかぎらない。伯父は物書きだった。誰も読まない啓蒙小説ばかり書いていた。
「林檎」
「初めての飛行機」
「小さな母、メルダーベルクに登る」
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