『聞いてないとは言わせない』ジェイムズ・リーズナー/田村義進訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★☆

 『Dust Devils』James Reasoner,2007年。

 ヒッチハイクでやって来た青年トビーは、四十前後のおかみさんグレースが一人で切り盛りしている農場で働かせてもらうことになった。いつしか肉体関係を持つようになるトビーとグレース。朝、ベッドから抜け出し家捜しするトビー。その現場をグレースに押さえられたトビーは言った。「ふざけないでくれよ、母さん」。直後、銃を持った男たちが乱入し……。

 という無茶苦茶なのは最初だけで、その後は強盗の分け前を巡って撃ち合い騙し合いがトントン続く景気のいいアクション小説です。自らの命を守るために「失われた金」を追って、ベテランの元強盗と素人の青年のカップルが行く先々で生死をともにしてゆく、往年のギャング映画やロードムービーのような転落避行。

 何なんだと思っていたら、結末に至ってこの冒頭の無茶苦茶な設定がちゃんと意味を持つようになっておりました。

 序盤でダナ(グレース)が一言。「わたしは危険な女よ。聞いてなかったと言わないでね」。こんな台詞があってこの邦題でこんな話であれば、結末は一つしか考えられないのですが、冒頭の無茶苦茶さを伏線にして、後味の悪くない結末が用意されていたのには驚きました。このタイプの結末とくれば、大藪春彦なんかのような非情なものを覚悟していたのですが、こう来るとはお見事です。

 雲ひとつない青空はぎらぎらと輝き、地面からはゆらゆらと熱気が立ちのぼる。道路の両側はどこまでも平坦な畑だ。そんなテキサスの片田舎にヒッチハイクで流れてきた青年トビーは、一人で農場を経営するグレースに雇われて住みこみで働きはじめる。広大な土地にたった二人、たがいに惹かれあうものを感じるが……乱入するガンマン、飛び交う銃弾、逃亡と追跡、裏切りまた裏切り。予測不可能、一気呵成、疾風怒濤の大傑作(カバー裏あらすじより)
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