「コルタサル・パス」円城塔
――僕は彼女と、時空や世界を超えて会話する。それはあるべき宇宙の形なんだ――。(袖コピーより)
夏から始まる新連載のプロローグ。コルタサル「続いている公園」とメルヴィル『白鯨』に捧げている(かもしれない)作品。コルタサル・パスって名づける作中の学者さんのセンスが好きです。
「コヴハイズ」チャイナ・ミエヴィル/日暮雅通訳(Covehithe,China Miéville,2011)
――今夜それがあるらしい。昔の同僚の書き込みから当たりをつけたドゥーガンは、娘とともに夜の闇のなかを進んだ……。
何だかわからないものに少しずつ近づいてゆくホラーサスペンス風の語り口が面白い。もったいぶっているわりにはマンガチックというか、翻って小説は描き方なのだなと改めて思いました。
「小さき供物」パオロ・バチガルピ/中原尚哉訳(Small Offerings,Paolo Bacigulpi,2011)
――自然出産するためには予備分娩が不可欠になった未来。それにたずさわっている産婦人科医は……。
環境がいよいよ人体にも影響を及ぼしました。食物連鎖の頂点で濃縮された毒を出さざるを得ない現実は、おぞましいけれど実際にありそうで恐ろしくもありました。
「Hollow Vision」長谷敏司
――スーパーコンピュータをまとったモデルの女ごと、海賊にさらわれた。密輸を監視していたヘンリーは……。
忍者ものでもバトルものでもよくあるような光景に、科学的な理論武装をするのも、SFの面白さで(いやもちろん著者はそういうつもりでこの作品を書いているわけじゃないのだろうけれど)。
「SFのある文学誌(16)明治のヴェルヌ・ブーム2」長山靖生「書評など」
◆著者にもラヴクラフトにも思い入れはなかったのですが、黒史郎『未完少女ラヴクラフト』の書影を見ると、創元推理文庫版ラヴクラフト全集のパロディになっていて、俄然興味が湧きました。ほかデイヴィッド・ミッチェル『クラウド・アトラス』、ストレンジ・フィクション久々の刊行テッド・ムーニイ『ほかの惑星への気楽な旅』、アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』、米澤穂信『リカーシブル』、東欧の想像力『火葬人』。
「歩いていける「むかし未来だった」不思議な世界」椎名誠のニュートラル・コーナー
ウォシュレットや音姫やタクシーの自動ドアや室内スリッパ等の日本ガラパゴス文化について。スリッパは盲点でした。
「無政府主義者の帰還」(3=最終回)樺山三英
――天狗に連れられ荒野に出たOは、そこで映画を見せられる――。
「生き延びた大杉(栄)という、ひとつの仮説」なることが明らかに。こういう書かれ方をするとヤバイな。まるでユートピアみたいじゃないか。
「ドラゴンスレイヤー」草上仁
「SF挿絵画家の系譜 84・泉鏡花と挿絵画家たち」大橋博之
鏑木清方、鰭崎英朋、小村雪岱らと、泉鏡花の人となり。
『SENSE OF REALITY』「あんまりふわふわしないで」金子隆一/「「気づき」の大事さ」香山リカ
山口香はほんとかっこいい。
「乱視読者の小説千一夜(26)失われたままの記憶」若島正
ドナルド・E・ウェストレイクの遺作について。
「霧に橋を架けた男」(後編)キジ・ジョンスン/三角和代訳(The Man Who Bridged the Mist,Kij Johnson,2011)
――建築途中の思わぬ事故に深く傷つくキット。この広大な霧に橋を架ける、彼の想いは叶うのか――(袖コピーより)
橋を架ければ渡し守がいらなくなる。わかっていはずだったのですが。。。