「ハヤカワ文庫SF50年の歩み」渡辺英樹
「40年の歩み」に加筆修正したものだそうですが、さすがに十年前の記事は覚えていません。創刊当初はハヤカワ・SF・シリーズとの差別化を図ったスペース・オペラなどの大衆娯楽路線だったこと――今となってはSF文庫の特徴でもある「青背」も、第二期になって登場した当初は、娯楽路線の「白背」とは違う本格SFを志向していたこと――など、新鮮に読めました。そして表を見て驚いたことに、今でも白背が新刊SF文庫の45%も占めています。白背なんて見たことないぞ……といぶかしんだのですが、本文を読んで納得。ローダン・シリーズが白背なんですね。
「ハヤカワ文庫SF創刊50周年記念エッセイ Part1 ★ 新世代SF作家による「わたしのいちばん好きなハヤカワ文庫SF」」石川宗生・小川哲・高山羽根子・酉島伝法・他
小川哲氏の一冊はロバート・J・ソウヤー『ゴールデン・フリース』。文体にも凝っているのはサービス精神なのか照れ隠しなのか、いずれにしろ格好いい文章です。高山羽根子氏の一冊は『レ・コスミコミケ』。「ちょっとばかり現実が息苦し」い現在に配慮して選ばれています。
「ハヤカワ文庫目録[1976年版]再録」
よく書店においてある出版目録の1976年版をそのまま掲載。う~ん……資料的価値なのかな。。。
「祝・50周年! ハヤカワ文庫SF」渡邊利道×鳴庭真人×冬木糸一
微妙な人選に感じるのですが、鼎談メンバーも世代交代してきているのでしょうか。
鳴庭氏が指摘している、「最近の創元SF文庫は、とにかく『受賞作』ということを押し出してきますよね」というのは、むしろ今も昔もハヤカワSF文庫のイメージなのですが、渡邊氏はそれを「最近のヒューゴー、ネビュラ受賞作は多様性の話とか、文学性が高いものとかが獲りがちな傾向があって、創元さんはそのあたりをまとめて導入してやろうという気持ちがあるんじゃないかな」と分析していました。冬木氏もそれに同調して、「(創元の文庫には)編集者の問題意識というか、こういうのを出していくぞという傾向があるのはけっこう感じます」とコメントしています。
それに続けて渡邊氏が、創元から出ている文学系として、レイ・ヴクサヴィッチ『月の部屋で会いましょう』、マーク・ホダー《大英帝国蒸気奇譚》シリーズ、ジョー・ウォルトン『わたしの本当の子どもたち』のタイトルを挙げていました。レイ・ヴクサヴィッチは岸本佐知子のアンソロジーでおなじみですし、ジョー・ウォルトンも好きな作家なので、マーク・ホダーの《大英帝国蒸気奇譚》シリーズも気になります。確認してみると『バネ足ジャック』のシリーズなんですね。受賞作紹介当初と邦訳刊行当初に気になりながらも買いそびれて読みそびれていただけでした。
渡邊氏は日本でYAがあまりヒットしなかった理由についても、「日本では読者の興味がライトノベルのほうにふれていて、あんまり注意を向けられなかったのかなと」分析していて、腑に落ちるコメントが多かったです。
「ハヤカワ文庫SF創刊50周年記念エッセイ Part2 ★ SF翻訳家による「わたしのハヤカワ文庫SFベスト翻訳」」大森望・小野田和子・小尾芙佐・中村融・山岸真・他
「SFのある文学誌(72)大江健三郎的想像力1――核をめぐる過剰もしくは貧困」長山靖生
「書評など」
◆『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』は、片仮名タイトルからもわかるように、ラヴクラフト「宇宙からの色(異次元の色彩)」の映画化です。ラヴクラフトが苦手なわたしですが原作は好きな作品の一つなのでこれは楽しみ。
◆海外作品は話題作が目白押しです。劉慈欣『三体II 黒暗森林(上・下)』、『時のきざはし 現代中華SF傑作選』、シオドラ・ゴス『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』。週末翻訳クラブ「バベルうお」による翻訳小説同人誌『BABELZINE Vol.1』は、未訳作品11篇を収録したアンソロジーですが、SFに限られているわけではなさそうです。
「2018年4月1日、晴れ」劉慈欣/泊功訳(2018年4月1日晴,劉慈欣,2008)★☆☆☆☆
――横領した大金を使って寿命を三百歳まで延ばせる「基延」技術を受けるかどうか、もう二、三カ月は迷っていた。躊躇している一番の理由は簡簡の存在だ。彼女と離れたら、たとえ二千年生きたってなんの意味があるのだろう。
貧富の差による健康格差など、アメリカで現に問題となっている要素を取り入れているところに現代性を感じるものの、よくあるディストピアではあるし、最後は人生哲学的な話になってしまうのも興醒めです。
「大森望の新SF観光局(74)「世界SF作家会議」の舞台裏」
フジテレビで放送された、冲方丁・小川哲・新井素子・藤井太洋・劉慈欣も参加した「世界SF作家会議」について。Youtube で公開されているので見てみましたが、面白かったです。
「乱視読者の小説千一夜(67)One Foot in the Grave」若島正
ピーター・ディキンスン『Some Deaths Before Dying』。
「ピグマリオン(後篇)」春暮康一
「火星のレディ・アストロノート」メアリ・ロビネット・コワル/酒井昭伸訳(The Lady Astronaut of Mars,Mary Robinette Kowal,2013)★☆☆☆☆
――63歳になったエルマだったが、今もNASAのデータベースには登録を続けており、ふたたび宇宙に行くのを諦めたわけではない。寝たきりの夫ナサニエルとエルマの看護師であるドロシーは、子どものころにエルマと会ったことがあり、エルマからもらったパンチカードで作ったワシを今も大切に持っているという。やがて、身体に影響のあることから若者にはまかせられないミッションの依頼が来る。引き受ければまた宇宙に行けるし、夫の死に目を見ずに済む。だが夫を残して行くことにも躊躇いはあった。
ヒューゴー賞受賞作。本誌巻頭で紹介されている新刊『宇宙へ(上・下)』の後日譚。というか、発表はこちらの方が早いので、2018年の『宇宙へ』の方が本篇の前日譚ということになります。老いて一線を退いた宇宙飛行士が、一躍時の人となるきっかけとなった若いころのエピソードが『宇宙へ』ということのようです。かつてパンチカードで作ったワシの形=子どもを産むか産まないかの深層心理というのがあまりにも頭で作っただけの筋書きであるうえに、病身で先の長くない老夫という設定ともども、主人公の葛藤のダシに使われているだけの底の浅い物語でした。
「SFの射程距離(6)ストーリーに書けないものが見たい」池上高志
熱い人です。元になったインタビュウの全容が http://aisf.work/oralhistory で読めると書かれているのですが、読めませんね。。。
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