『S-Fマガジン』2014年3月号No.696【英米SF受賞作特集】

「SF COMIC SHORT-SHORT(3)」うつろあきこ

「スシになろうとした女」パット・キャディガン/嶋田洋一訳(The Girl-Thing Who Went Out for Sushi,Pat Cadigan,2012)★★★★☆
 ――フライが木星《ビッグJ》の主環にぶつかり骨折したときのことだ。「わたし、スシになろうと思う」。フライは美のクイーンだった。使えるものはすぐれた容姿も利用し、選んだのは、羽毛のない二本足以外の全員がタコというこの現場だった。わたしたちの前にも木星委のクルーと仕事をしたことはあったらしい。

 ヒューゴーローカス賞受賞。たとえば「スシ」という言葉が何を指すのかはおいおいわかるようになっていて、異文化と異文化人から見た地球人類文化が初めは何の説明もなく書かれているため、日常そのものが意外性に満ちていて、そのせいで明らかにされるフライたちの意図が意外でも何でもなく感じられてしまいました。こういうのは痛し痒しという感じですね。
 

「没入」アリエット・ドボダール/小川隆(Immersion,Aliette de Bodard,2012)★★★☆☆
 ――あなたのアヴァターはおしゃれな服をまとっている。一瞬、焦点がずれると、ずんぐりとした女性が鏡のなかから見つめ返す――それは見知らぬ他人で、はるか遠くの記憶は意味をもたなくなっていた。/わたしたちは没入装置を銀河語設定で常時着用していた。押しつけられて、自分たちを彼らと同じように見せている。

 ネビュラ/ローカス賞受賞。容姿の問題と文化の平均化の問題が同時に扱われていますが、相手の顔が見えずにネットで世界と繋がっているという状況はまさに
 

「九万頭の馬」ショーン・マクマレン/小野田和子訳(Ninety Thousand Horses,Sean McMullen,2012)★★★★☆
 ――一九四三年、戦時内閣の一員がわたしを訪ねてきた。偵察機が撮影したドイツ軍の写真には、ロケットが写っていた。一八九九年、ヨークシャーでおなじロケットを見たことがある。わたしは亡命ポーランド人だった。ジェーン・スミスという偽名で働いていたわたしのところに、鉄道技術会社のオーナー・ラスリン卿が現れ、息子の研究を探ってほしいと言ったのだ。

 アナログ誌読者賞受賞。レトロとSFの融合は、スチーム・パンクというよりもどこかジュール・ヴェルヌを思わせるロマンと政治と科学技術にあふれていました。語り手がウォルターの意図を見抜く場面では読んでいるこちらも興奮しました。四十年後にナチス・ドイツが同じようなロケットを作りあげた、というだけで、四十年前のロケットと直接のつながりがないのがしっくりきませんが。
 

英米SF注目作カレンダー2012」鳴庭真人
 ディストピアSF、ヒュー・ハウイー『ウール』(角川文庫)、あらすじは面白そう。昨年9月に日本語版が刊行されてましたが気づきませんでした。新銀背より円城塔訳『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』が刊行予定のチャールズ・ユウの新作『Sorry Please Thank You(ごめんねどうもありがとう)』ハードカバーの表紙デザインが面白い。ジェフリイ・フォード『Crackpot Palace(奇人の宮殿)』。チャイナ・ミエヴィルのジュヴナイル『レイルシー』とパオロ・バチガルピのジュヴナイル『水没した都市』。アダム・ロバーツ『Jack Glass(ジャック・グラス)』は、稀代の大犯罪者・殺人者ジャック・グラスが主人公のSFミステリ。紹介文では、クリスティやセイヤーズ、『虎よ! 虎よ!』といった名前が挙げられています。

「書評など」
宮澤伊織『ウは宇宙ヤバイのウ!』は、「ブラッドベリの短篇集をもじったタイトルを冠するだけあって」とか、「決してイロモノではない」とか書かれていますが、果たしてどうなんでしょうか。ポケミス『地上最後の刑事』ベン・H・ウィンタースは『ミステリマガジン』でも紹介されてました。

『絞首台の黙示録』(2)神林長平
 ――作家であるぼくは、ひとり暮らしの父の失踪を疑い、新潟へと向かうのだが……(袖惹句より)

「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇(8)謎のサクセス・ストーリー」横田順彌

「SFのある文学誌(27)もうひとつの言文一致――「演説小説」というスタイル『黄金世界』そのほか」長山靖生

マイティ・ソー/ダーク・ワールド』公開記念小特集 スタッフ&キャスト・インタビュウ
 

「MAGAZINE REVIEW 〈アナログ〉誌 2013.7/8〜2013.11」東茅子
 10月号ジャネット・キャサリン・ジョンストン「ブルー・ムーン(Lune Bleue)」は原綴りがフランス語、アレン・M・スティール「ヴェルサイユ宮殿から千六百万リーグ(Sixteen Million Leagues from Versailles」は内容もルイ16世の花瓶、どちらもフランスが舞台なのでしょうか?

ニュートラルハーツ(2)電気少女の欲望」吉富昭仁
 

「第1回ハヤカワSFコンテスト最終候補作 『テキスト9』刊行記念 小野寺整インタビュウ/『ファースト・サークル』刊行記念 坂本壱平インタビュウ」
 『テキスト9』は「要約不能」。『ファースト・サークル』は「昔のファンタジーノベル大賞系に通ずる匂い」。個人的には1月号掲載の二作よりも面白そうに思えますが――。

スチームパンク・テキサス 第71回世界SF大会ローンスターコン3レポート」巽孝之

「廿日鼢と人間」深堀骨

 


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