『リヴァトン館』ケイト・モートン/栗原百代訳(RHブックス・プラス)★★★★☆

『The Shifting Fog』Kate Morton,2006年。

 語り手が語る悲劇の内容を聞き手が知っているのなら、「何が起こったか」をわざわざ口にする方が不自然なのでしょうね――というわけで、もったいぶっているわけでも何でもなく、でも読者にだけ悲劇が伏せられる語りに説得力がありました。

 語り手の「想像」と記憶を信じるならば、本書は文字通りの「一族」の悲劇でした。(※語り手である元メイドのグレイスは館の当主フレデリック(新アシュベリー卿)の娘で、映画監督アーシュラはフレデリックの娘フローレンスの孫ということになるのだから)

 (三兄妹が秘密のゲームをするときには)「諮問団のほかに、おのおの自分のキャラクターをもっていた。ハンナはエジプトの女王ネフェルティティ、デイヴィッドはチャールズ・ダーウィン。統治法ができたときにまだ四歳だったエメリンはヴィクトリア女王を選んだ。退屈なキャラクターとのことで、ハンナとデイヴィッドの意見は一致した。エメリンが幼かったことを思えば無理もないが、冒険仲間にふさわしいとはとうてい言いがたい人物だ。」

 こういうひねくれた物言いが大好きです。

 老人介護施設で暮らす98歳のグレイスの元へ、新進気鋭の女性映画監督が訪れた。「リヴァトン館」という貴族屋敷で起きた70年前の悲劇的な事件を映画化するため、唯一の生き証人であるグレイスに取材をしたいと言う。グレイスの脳裏に、リヴァトン館でメイドとして過ごした日々が、あざやかに蘇ってくる。そして墓まで持っていこうと決めていた、あの惨劇の真相も...。死を目前にした老女が語り始めた、驚愕の真実とは? 気品漂う、切なく美しいミステリ。(上巻カバー裏あらすじより)

  


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